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12.ミオの散髪(2)
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「今日ね、学校でクラスメートの子に、髪を切りに行くってお話をしたの」
「ほうほう」
「そしたら女の子たちがね、『ミオちゃん勿体無いよー』って言うんだよ」
「もったいない? 長い方がいいって事かな」
「うん。『伸ばした方が女の子らしくてかわいいから、切るのは勿体無い』んだって」
「あぁ、そういう事か」
「ボク女の子じゃないっていつも言ってるのに、みんな女の子扱いするんだよ。変だよね」
「ははは。でも、その子たちが、ミオの事を女の子だと思い込む気持ちも分かる気がするよ」
「ええぇ、お兄ちゃんまでー?」
「今だから言うけど、俺もミオに再会した時は、普通にかわいい女の子が抱きついてきたって思ったからね」
「そうなの?」
「うん。園長先生に教えてもらわなかったら、きっと気付かなかっただろうな」
「ボク、そんなに女の子っぽく見えるのかなぁ」
ミオは納得のいかない様子だが、何しろこの子は女顔の美少年だし、声や体つき、しぐさも女性的だ。
さらに女の子もののショーツを〝かわいい〟という理由で好んで穿くのだから、そりゃまぁ女の子扱いされたり、間違えられてもおかしくはないよな。
「ね。お兄ちゃんは、ボクが女の子の方がよかった?」
「そんな事ないよ。男の子、女の子、どっちでもいい。俺はミオの事が好きなんだ」
「ほんと?」
「うん。ほんとだよ」
「嬉しい……ありがとね、お兄ちゃん」
ミオが頬を染め、はにかみながら俺の腕を抱いた。
実際問題、こんなにかわいい子だったら、性別なんてどっちでも構わないよな。
一昔前ならともかく、昨今は、同性同士の結婚に対する理解も徐々に広まってきている事だし。
ん? 待てよ。
という事は、俺はさっき、ミオと結婚する前提で「好き」と発言をしてしまったのか?
いや、まさかな。俺はあくまで、里親として、我が子であるミオを愛しているだけだ。
きっと。たぶん。
……やっぱり自信がない。
同じ屋根の下で暮らし、ベッドでは体を寄せ合って眠り、休日にはデートに出かける。
その生活の中で、俺が一度たりともミオにときめかなかったのかと言うと、それは否 である。
現実として、こうやって腕を組んで一緒に歩いているだけで、俺はまるで年下の彼女ができたかのような錯覚を起こしているのだから。
これって要するに、ミオの事を恋愛対象として見ているって証拠ではないのか?
うーむ。やっぱり俺はショタコンの気があるのかも知れないな。
「あ、お兄ちゃん」
「……えっ。な、何だい?」
「あそこ。ボクと同じクラスの子がいるの」
と、ミオが指差した先には、学習用の手提げバッグを持つ、一人の女の子が歩いていた。
「ねぇ、あの子とお話しに行ってもいい?」
「うん、いいよ。じゃあ一緒に行こうか」
ミオは大きく頷くと、小走りで女の子の元へと駆け寄っていった。
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