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12.ミオの散髪(1)

 とある日の夜。  お風呂上がりの、上半身裸でショーツ姿のミオが髪を乾かす際、首元まで伸びた襟足を気にしていた。 「ミオ、ちょっと髪の毛伸びた?」  と、ミオの裸体を見ないよう、できるだけ視線を髪の毛に集中させながら尋ねる。 「んー、そうかも。このごろ、後ろの方が乾きにくくって」  ミオはそう答えると、大きめのタオルを頭にかぶせてゴシゴシと拭き始めた。  俺たちはいつも一緒にいるから、なかなかお互いの変化には気付かない。  が、ミオをうちに迎え入れてから、もう一ヶ月が経つ。  その間、一度も髪を整えていなかったのだ。そりゃ伸びてくるよな。 「いつもはどのくらいの長さにしてるの?」 「んとね、お兄ちゃんにまた逢えた、あの時よりちょっと前に切ってもらったから……」 「じゃ、あの時のがほぼベストな髪型なんだ?」 「うん。長くしすぎると乾かすのに時間がかかるでしょ? だから、いつも短めにしてるんだよ」  つまりミオのショートヘアは、見た目がどうこうと言うよりも、濡れた場合の乾きやすさを重視した結果のものらしい。  一概にショートヘアと言っても、この子の場合は刈り上げたりはせず、髪の毛が立たない長さをキープした、ナチュラルなショートヘアだ。  いわゆる〝ボーイッシュな女の子〟っぽい髪型、と表現すれば分かりやすいだろうか。  で、あれから伸びてきた今の髪の毛の長さは、ミオにとって機能的にベストではないのである。  となったら、やはり散髪に連れて行ってあげるべきだろう。  こういう事は本人から申し出をさせるよりも、俺の方から提案してやる事で、今後は気を遣わせなくても済むはずだ。 「ミオ、髪の毛切りに行こっか」 「うん。短くしたーい」 「んじゃ、明日は一緒に床屋さんへ行こう」 「え、お兄ちゃんが連れてってくれるの?」 「初めて行く場所だからね。ミオ一人で行って、もし道に迷っちゃったら危ないし。というわけで明日は早く帰って来るから、お家で待っててな」 「はーい!」  ミオは元気いっぱいに返事をした。  俺がいつも行く床屋は、昔ながらの理髪店とは少し違う。  美容院とまでは言わないが、割とモダンな雰囲気のヘアーサロンで、理容師の人たちも若い層が中心だ。  なので、幼くて女性的なミオの絶妙なショートヘアに関しても、きっと柔軟に対応してくれるだろう。  俺も付き添いのついでに、ひげ剃りや顔剃り、シャンプーくらいはやってもらおうかな。  ――そして翌日。  定時で仕事を切り上げて帰宅した俺は、留守番していたミオを連れて、徒歩でおよそ十五分程のところにあるヘアーサロンへと向かった。

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