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12.ミオの散髪(5)
なになに、これは『出来るメンズのためのヘアセレクション』だって?
やたら横文字が多いが、要するに、これは男性向けのおしゃれな髪型の見本が載っているカタログ誌らしい。
たぶん、どういう髪型にするか迷ったまま店に来た人は、この手の雑誌を参考にするのだろう。
そして雑誌に掲載されている髪型を見せ、「この人みたいにしてください」と頼めば、まず間違いはない。
それが自分の顔にマッチしているかどうかはともかくとして、腕のいい理容師なら、きっとその雑誌の通りにカットしてくれるはずなのだから。
俺は雑誌をパラパラとめくり、どんな髪型が〝出来るメンズ〟のためになるのか流し読みしてみた。
うーん、派手だなぁ。今はこういう攻めた髪型が流行りなのか?
出来るメンズって言うけど、それってあくまで、自分の店や会社を持っていて、ある程度自由にできる起業家みたいな人向けなんだろうな。
いち会社員で、外回りが中心な営業職の俺には、これはちょっと無理だと思う。
まず、上司に「なーに色気出してんだ」って怒られちゃうよ。
やっぱり俺は、いつもの刈り上げた短髪がお似合いだな。
俺はカタログをマガジンラックに戻し、今度はスポーツ新聞に手を伸ばした。
普段はスポーツ新聞には全く縁が無い俺だが、たまに読む分には面白い。
贔屓 の野球チームに関するポジティブな記事が載っていればそれをくまなく読むし、仮に連敗続きで目も当てられない場合は、近辺の釣果情報でもチェックすればいい。
そのほか、各種ギャンブルの予想や、隣の人に覗き込まれたらヤバい事になる例のグラビア記事なんかも載っているので、まぁ退屈はしないだろう。
俺は野球の他にもプロレスが好きなんだけど、あいにくこの新聞では格闘技は取り扱っていないようだった。
「今日はお父さんと来たの?」
「お父さんじゃないよー、お兄ちゃんだよ」
「そっかそっか。それにしてもサラサラしてて綺麗な髪してるね、学校でよく言われない?」
「サラサラは言われるなぁ。あと『すごく青いね』って」
「だろうね。ナチュラルでこんなに青い髪の子を見るのは、お兄さんも初めてだよ」
「そうなの?」
「うん。ヤンキーのお兄ちゃんがたまに青い髪している事があるけど、あれは染めてるからねぇ」
「ヤンキーって何?」
髪の毛を整えてもらっているミオが、理容師のお兄さんと会話をしている。
やれやれ、ここでも俺は父親と間違われたのか。俺ってそんなに老け顔なのかな?
まぁ里親だから親である事には違いないんだけど、二十七歳は、年齢的にはまだお兄さんでしょ。
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