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12.ミオの散髪(6)

「シャンプーでお待ちのお客様、ご案内いたしまーす」  他の客のヘアカットが終わり席が空いたことで、ようやく俺の番が回ってきた。 「今日はシャンプーと、お顔剃りもですよね。はどうされますか?」 「えと、自然な感じで揃えてもらっていいですか」 「かしこまりました。では先に、お顔の方から剃っていきますねー」  座っているバーバーチェアの背もたれが倒され、俺は顔のいたるところにシェービングクリームを塗られる。  そして、アゴともみあげまでを蒸しタオルで覆い、ヒゲを蒸らしている間に、理容師さんは頬や眉毛の間、額などを丁寧に剃っていってくれた。  顔剃りをしてもらった後は、手で触った時のスベスベ感が何とも言えない心地よさなんだよな。  市販のT字カミソリや、電気シェーバーじゃなかなかできない耳や額まで綺麗にしてもらえるし、眉毛も整えてくれる。  営業職は人当たりのよさや、セールストークが大事だが、外見の清潔感もおろそかにしてはいけない。  なので俺は、顔剃りは定期的にやってもらう事にしているのだった。 「お顔を剃り終わったので椅子起こしますね。そのままシャンプー台の方へどうぞー」  服を濡らさないためのシャンプークロスを着せられた俺は、促されるままシャンプー台に頭を突っ込んだ。  理容師は、涼感があるメントール入りのシャンプーを泡立て、頭皮を念入りに洗っていく。  家に帰ったらどうせ風呂に入るのだが、自分でやるよりも、プロの腕前で優しく揉み洗いしてもらう方が気持ちがいい。  頭がスッキリして、血行がよくなったかのような気分になる今日のシャンプーは、自分に対するちょっとした贅沢のつもりでお願いしたのだった。 「お疲れさまでした。どうぞ、お顔を拭いてくださいね」  濡れた髪の毛をドライヤーで乾かしてもらいながら、俺は受け取ったタオルで顔を拭う。  仕上げに整髪料をつけるかどうか尋ねられたが、この後は家に帰り、飯を食って寝るだけなので、ドライヤーと手櫛(てぐし)だけの、自然なヘアセットをリクエストした。  さて、これで俺の分は全部終わったわけだが、ミオの方はどうなってるかな。 「え? 男の子だったの?」 「うん。そうだよ」  ミオもシャンプーと乾燥を終え、最後に、服にまとわり付いた髪の毛を払い落としてもらうところだった。 「マジかー。お兄さん、君の事をずっと女の子だと思ってたよ」 「やっぱりみんなそう思うんだね」 「女の子にしては短くするんだなって心配してたんだけど、ほんとにこのくらいでよかった?」 「もう。だからボクは男の子なんだってばー」  この店でも女の子だと間違われた事に関して、ミオは半ば諦めたような、半ば悟りでも開いたかのような複雑な顔をしている。  かたや父親、かたや女の子か。  俺たちは勘違いをされやすいという点で、似たもの同士なのかも知れないな。

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