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17.夢のリゾートホテル(3)

「何でや! せっかく半年前から予約サイトに張り付いて、ようやくオーシャンビューのええ部屋が取れたのにぃ」 「え? 半年前から?」 「そうや。あんだけの人気ホテルなんやで、夏場のハイシーズンはすぐ予約が埋まってまうからな。ええ部屋取るなら早めじゃないとアカン」 「て事は、ユキちゃんと付き合いだしてすぐにホテルの予約取ったの?」 「うん」 「佐藤……俺が言うのも何だけど、さすがにそれはアホだろ」 「ぐっ」  俺にまで見放されたのがよほど(こた)えたのか、佐藤はまた机に突っ伏してしまった。  こんな〝超〟が付くほどの見切り発車をするような男と半年付き合ったユキちゃんも、よく持った方だよ。 「他に行ってくれる子もいなくて、一人で泊まるのも嫌。だったらもう、ホテルの事はスッパリ諦めるしかないな」 「うー、じゅうまんえん……」  佐藤は十万円というフレーズを、まるで念仏でも唱えるかのごとく、ブツブツと何度も繰り返している。  もう気の毒すぎて、これ以上かける言葉も見つからないよ。  事情は聞くだけ聞いたし、この場はさっさと退散して、家でミオと一緒に遊ぼう。 「じゃ、俺は先に帰るから。あんまり気に病むなよ」 「ちょい待ってくれや。じゃあ、せめてこれから飲みにでも行かんか?」 「何が〝せめて〟なんだ。家ではかわいい子が待ってるから、当分は寄り道しないって決めてるの」 「かわいい子? 女か?」 「あのなぁ。お前の頭の中、どこまで女の事ばっかりなんだよ。かわいい子っていうのはうちのミオだよ」 「そうか、その手があったな」  佐藤はそう言うと、活気を取り戻したかのような勢いで立ち上がった。 「柚月。オレが予約したホテル、お前とそのミオちゃんとで行ってけーへんか?」 「へ? ミオと?」 「そうや。あそこならいい思い出になるやろ」  突飛(とっぴ)な提案だが、言われてみると、確かにその通りかも知れない。  佐藤が予約したリゾートホテルは、一定区域の砂浜がほぼ貸し切り状態となるプライベートビーチを売りにしているので、大衆的な海水浴場とは違ってダダ混みする心配がないのだ。  つまり、人混みが苦手な俺とミオにとって、プライベートビーチは最高の環境になるという事。  夏休みにはミオを海に連れて行ってあげたいと考えていただけに、佐藤の提示してきたプランは極めて魅力的で、かつ、またと無いチャンスのようにも思える。  もっとも、そんないいところに二泊もするためには、それ相応の対価を支払わなければならないのだけど。 「ひょっとして、タダで行かせてくれるのか?」 「アホな事言うなや。といっても、オレも守銭奴(しゅせんど)やないからな。八十パーセントでどや?」  佐藤の奴、よりによって、同じ営業職の俺に営業をかけてるつもりなのか。 「八十パーセント引きでいいの?」 「何でやねん!」  多少精気が戻ってきたのか、佐藤は勢いよく突っ込みを入れた。 「十万円の八掛けや、つまり八万円。これでどないだ?」 「どないだって言われてもな。まだ高いよ」 「うー。ほな、七万九千五百円」 「刻みすぎだろ。無理無理」 「柚月ぃ、オレを助けると思って何とかしてくれやー」  営業が無理だと分かったら今度は懇願か、忙しいやつだな。  まぁ、このまんまじゃ十万円が丸損になりかねないし、かわいそうだから、もう少しだけ話を聞いてやるか。

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