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17.夢のリゾートホテル(4)
「佐藤、今キャンセルしたらいくら戻ってくるんだ?」
「えーとな、ちょっと待ってくれよ」
佐藤はスマートフォンを手に取り、リゾートホテルのホームページをチェックし始めた。
「予約取った日はもろハイシーズンやし、今から起算すると五十パーセントになるらしいわ」
「てことはおよそ五万円か。結構取られるんだな」
たいていのホテルなら、前日までなら二十パーセントのキャンセル料で済むらしいんだけど。
「しゃーないわ、泊まる場所が場所やからな。ホテルのある離島まで行く、船賃コミコミで予約したのもあるし」
「で、泊まる日はいつなの?」
「ちょうど一週間後や」
「そんなに急な話なのか! 直前でフったユキちゃんもユキちゃんだな……」
「まぁ金額の話はさっきしたとこやしな。とにかくもう、五万円は返ってけーへんのや」
「でも残りの五万円は戻ってくるんだろ。そこで妥協するしかないんじゃないか?」
「それを柚月に何とかして欲しぃて、こうして頼んでるのや。七万九千円で買うてくれ」
「だから刻むなってんだろ。諦めて五万円もらっときなよ」
「あんなええホテルや。お前のミオちゃん、きっと喜ぶぞ……」
「うっ!?」
佐藤めー、ミオの存在を盾に、懇願から悪魔のささやきに切り替えてきやがった。
確かにあのホテルに二人っきりでお泊りできたら、ミオにはいい思い出になるだろう。
今年の夏はぎっしり予約が埋まっている、プライベートビーチ付きの高級リゾートホテル。
そこでオーシャンビューの部屋に泊まれるというのだ、これを興味が無いと言ったら嘘になる。
よーし。佐藤がそう出るなら、俺も営業職らしく、駆け引きと行こうじゃないか。
「佐藤。五万五千円なら考えてもいいよ」
「アカン。めいっぱい譲っても七万五千円や」
「つまり差額は二万円か。お前がもっと譲歩しないと、ホテルから戻ってくるお金が減るぞ?」
「柚月、思い出が欲しくないんか?」
「ほ、欲しいけどさぁ」
「ほな決断しとこ。なっ?」
「じゃあ、五万六千円」
「お前まで刻むんかい!」
「あー、明日になって返金額が四万円に下がってたらどうしよっかなー。ま、俺には関係ないけど」
「ぐっ!?」
よし、精神攻撃が効いているぞ! この調子だ!
「な、七万ジャスト。これ以上はビタ一文譲らへんぞ」
「まだ高い!」
「柚月ぃー、ミオちゃんのためやと思えば安い買い物やろがよ」
「お前ずるいぞ、そうやってミオをダシに使うのやめろよな。だいたい五万円で困るのはどっちだか分かってるのか?」
「でも、この値段であんなええホテルに二泊もできるんやぞ。どう考えても破格やろ」
「その破格をもう一声いければ考えるんだけどな」
「さよけ……ちゅう事はどうやら、まだお互いに譲歩が必要なようやな」
「よし分かった。じゃあ、せーので金額を言い合おう。それで決めようぜ」
「よっしゃ。ほな、いくでぇ」
「せーのっ」
「六万五千円!!」
――意外や意外。
俺と佐藤が言い合った金額は、一切のズレが無い、ジャスト六万五千円だった。
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