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17.夢のリゾートホテル(5)

「え。佐藤、六万五千円でいいの?」 「それはこっちのセリフや。お前、そんなに出してくれるんか?」 「いや、俺は予約を取ってくれた手数料のつもりで色を付けたんだよ。渡船や昼食券の事もあるし、六万円じゃ安すぎるかなぁと思ってさ」 「せやったんか……」 「むしろ俺は、佐藤がボケて値段をつり上げてくると思ってたんだけど」 「この期に及んでそんな事するかい。柚月が買うてくれるんなら、この額でもええかなって思って言うたんや」 「佐藤、お前いい奴なんだな」 「今さらかい! オレがお前を何回コンパに誘ってると思ってんねん」 「ははは、ごめんごめん。じゃあその分も金額に足しとくよ」 「そんなもん足さんでええ。オレら仲間やろ」 「うん……ありがとな」  佐藤のその言葉に、思わずジーンときた。  こいつは本当は金にがめついところも無く、人の世話をするのが好きな優しい男なんだ。 「というわけで、六万五千円で商談成立や。支払いはキャッシュで頼んまっせ」 「それは構わないけど。今は手元に三万円しかないから、銀行でおろしてきたのを明日渡すのでいいか?」 「それでええよ。ほな、オレはこれから宿泊者の名義変更手続きしとくわな」 「名義変更?」 「そうや。何かおかしいか?」 「今気付いたのも変な話だけど、それって可能なのかな。一般的なホテルだと、予約を取り消して、新しく取り直しにするそうじゃん」 「いやいや。予約の取り直しになったら、オレの予約は結局キャンセル扱いになるやないか」 「あ。そっか」 「それやってもうたらオレの手元に五万戻ってきて、お前がまた新たに十万円払わなアカンようになるだけなんやで。そんなムダな話あるかい」 「結局二人で十五万円払う事になるのか。そりゃムダだな」 「せやろ? そのムダを無くすための宿泊者変更や。最悪、そのまま俺とユキちゃんの名前で行ってもらうかも分からんけど」  まぁ別にそれは構わないかな。  ミオは女の子に間違えられるのが当たり前になってきてるし、ホテルの受付でも、まず疑われはしないだろう。  いざとなったら、ユキという名の男の子という事で通せばいいわけだし。 「了解。とにかく、手続きは佐藤に任せといていいんだな」 「かめへんよ、お前とミオちゃんの名前は全部記憶しとるから。変更できたかどうかはまた連絡するわ」 「分かった。それじゃ俺は先に帰るよ。また明日な」 「おう。ありがとな、柚月」  にこやかに手を振る佐藤と別れ退社した俺は、駅のホームにある、クーラーの効いた待合室で、帰りの鈍行列車を待つ。  と、その待ち時間の間に、佐藤から一通のメールが届いた。  そのメールによると、どうやら佐藤はホテルに電話した際、ユキちゃんにフラれた顛末(てんまつ)を正直に、洗いざらい話したらしい。  その余りの悲惨さに同情したホテルの顧客担当から、今回限りという条件で、宿泊者の変更に応じてもらえたとの事。  まぁホテル側はキッチリ十万円頂戴できるわけだし、佐藤の証言で、怪しい人物を泊めるために手を回したわけではないのも、変更の決め手になったのだろう。  かくして俺は、県内唯一のプライベートビーチ付きである、高級リゾートホテルにペアで泊まる権利を、三十五パーセント引きという激安価格で確保できたのだった。  夏のボーナスも入った事だし、六万五千円くらいなら、一括でポンと払ってもさほど痛くはない。  いつもコンパの世話をしてくれる佐藤のためにも、たまには恩返ししなくちゃな。

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