114 / 832
18.初めての通知表(6)
「ミオ、お花の世話を頑張ってるって書いてあるね。偉い偉い」
「ありがと。お花、すごく綺麗だからお兄ちゃんにも見て欲しかったんだけどなぁ……」
と、ミオは少し残念そうに笑った。
できる事なら俺も見に行ってみたかったが、近年はとある事件の影響により、一般人が小学校へ入ろうとすると、極めて厳格なチェックが入る。
そのため、「花を見たい」というだけの理由では、何か裏があるのではないかと疑われるため、まず門前払いになる公算が高い。
PTAの集会や授業参観、あるいは具合の悪くなった子供を迎えに来るみたいな特別なケースでもない限り、例 え保護者であろうとも、そうやすやすとは校門をくぐらせてはくれないのである。
それは、学校に児童がいない夏休み期間中でも同じ事だ。
なので、ミオがお世話している花を見せてもらうとしたら、ミオにカメラを預けて、写真を撮ってきてもらうくらいしか手段が無い。
「夏休みは、お花の世話はどうするの?」
「えとね、夏休みの間はヨウムインのおじさんがずっといて、ボクたちの代わりにお水やりをしてくれるんだって」
「そっか、用務員さんがいるんだ。なら安心だね」
「うん。ボクも登校日にはお花を見に行くよー」
ミオが通う小学校には、夏休み期間中、二度の登校日がある。
最初は八月九日で、二度目が八月二十一日。
なぜその日なのかという話はさておき、とにかく決められた登校日には学校へ行き、先生の話を聞いて、半ドンで帰って来るのだそうだ。
その頃には、みんなこんがりと日焼けしてるんだろうなぁ。
「ミオは、何のお花が好きなんだい?」
「ボクはね、コスモスが好きだよ。真っ赤なのがかわいくて、一番好きなの」
「真っ赤なコスモスか。〝乙女の愛情〟だね」
「え。なぁにそれ?」
「赤いコスモスの花言葉だよ」
「はなことば?」
「そう。お花とかの植物には全部花言葉というのがあってね、その植物の特徴から、意味を持たせた言葉を作るんだ」
「それが乙女の愛情なの?」
「そうだよ。ミオにはぴったりな花言葉じゃないか?」
「でも、乙女の意味が分かんない……」
「乙女ってのは、まぁ簡単に言うと、若々しい女の子の事だね。ぴったりだろ?」
「んー。ボク女の子じゃないのにぃ」
ミオはそう言って頬を膨らませるが、実は、俺に女の子扱いされるのは、あまり悪い気はしないらしい。
というのも、ミオの中にある女の子らしさを初めて指摘したのが俺で、それをかわいいと言ってもらえた事がまず一つ。
そしてもう一つが、俺に女の子らしくなったと思われる事は、裏を返すと、俺はミオの事をお嫁さんとして相応しいと思っている、とも受け取れなくもないからだ。
突拍子もない発想だが、少なくとも、ミオはそう考えているのである。
そういう背景があって、他人に女の子に間違えられるのは複雑だけど、俺だけは特別という事になっているのであった。
ともだちにシェアしよう!