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18.初めての通知表(5)

「ミオ、他の教科も見ていいかい?」  夢中で俺の腕にすりすりしていたミオは、俺の問いかけに対し、小さく頷いた。  ミオの了承も得たことで、俺は再び通知表を開く。  先程見た五教科の他には、一体何の教科があるんだろう……えーと、これは音楽だな。  この教科では、音楽に対する関心の高さや、表現する技能なんかが評価の対象になるらしい。  要するに、リコーダーを上手に吹けるかとか、歌唱力が技能に分類されるんだろうな。  で、その音楽の成績は高い方の〝四〟と。  という事は、ミオは楽器の演奏や歌がうまいっていう評価をされたわけだな?  特段、部屋で練習している様子もなかったのに、学校の授業だけでこんなにいい成績を取れるものなのか。  あるいは、俺が仕事から帰って来るまでの間に練習してたのかも知れないな。  お次の家庭科は、ミオが途中で学校に編入した時期の問題で、料理実習や裁縫(さいほう)などの授業に参加できなかった事からか、成績はど真ん中の〝三〟になっている。  残る教科は図画工作か。  これは絵を描いたり、粘土なんかを使って何らかの造形をしたりする教科なのだが、成績は〝二〟という辛めの評価だった。  ここだけの話、ミオはお絵描きがあまり得意ではない。  以前、家で親や保護者の顔を描いて学校に提出するという宿題を課された時、ミオがクレヨンで描き上げた俺の絵を見て、一瞬思考停止に(おちい)った記憶がある。  何と言うか、本人は一生懸命になって俺を描いてくれたんだろうけど、その頭部にはなぜか髪の毛が一本も無く、全て肌色になっていたのだ。  体は細く短足、両手も熊手みたいで、指が三本だったのはご愛嬌だと思う。  そんな俺でも、短めの髪をハゲだと表現された件については、さすがに理解が追いつかなかったのである。  でも、こういうのってすごく微笑ましいよな。  いつも俺の事を大好きだと慕っているミオが、頑張って、自分なりのお兄ちゃん像を(えが)き出してくれたんだもの。  その結果がどんな絵になっても俺は嬉しいし、できる事なら宝物にして、部屋に飾っておきたいとすら思うのである。  最後に、ミオの担任の先生による総合的な所見だが、次のような事が書いてあった。 「勉強に対する姿勢は大変まじめで、宿題やノートの提出も欠かさずできました。普段はおとなしく、少し引っ込み思案なところもありますが、男女分けへだてなく仲良くできる、気の優しい子です。係活動ではお花の面倒をよく見ており、細かな様子の変化にもすぐ気がついて、しっかりお世話をしていました」  なるほどなるほど。先生もミオが頑張っているところを、ちゃんと見て評価してくれたんだな。  ミオが教室の外で育てている花の世話係をしているのは、本人の口から聞いていた。  もともと花が好きな子だし、ちょうど世話係の枠が空いていた事を知らされて、自ら立候補したのだそうだ。  花の細やかな変化に適宜(てきぎ)対応する、という真面目で繊細(せんさい)な仕事ぶりが明らかにされたこの所見は、俺がまだ知らない、ミオの新たな一面に気付かせてくれる貴重なものであった。

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