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18.初めての通知表(8)

 そしてもう一冊の冊子だが、これはやはりというか、定番の〝夏休みの友〟だった。  発行元は、俺たちが住んでいる県の教育研究会との事。  教育研究会なんて組織、見た事も聞いた事もないけど、まぁ、どこかにひっそりと存在しているんでしょう。  発行元の素性はともかくとして、肝心の内容はどうなっているんだろう?  どれどれ、適当に国語のページでも読んでみるか。  当然と言うか何と言うか、ミオが一学期に習ったであろう、漢字の読み書きの復習問題は普通にある。  それから例文にふさわしい言葉を二択から選ぶとか、文章の穴空きを適切な言葉で埋める問題なんかが用意されている。  ざっと見た感じ、上から二番目の成績を取れたミオなら全部つっかえる事なくできそうだが、最も厄介なのがだな。  これは読書感想文のような、見たものに対して、あなたが感じた事を書きましょう、というポピュラーな課題である。  ただしこの冊子によると、感想文を書く対象は本でなくてもよく、例えば教育のために作られた映像作品でも構わないそうだ。  でも、感想文を書くだけのために本を読む事が目的になったら、つまらなくてやる気が起こらないんじゃないの?  と、当時子供だった俺はいつも思っていたため、読書感想文だけは毎年、遅々として進まなかった。  俺みたいに、感想文ありきで読書をする事に疑問を抱く子は結構いると思うのだが、これについては、自発的に書きたいという気を起こすような、魅力的な作品を見つけることが大切だと思う。  あるいは、この本をみなさんに配布しますから、原稿用紙に感想文をしたためて提出しなさい、みたいな統一されたやり方だったら、テーマ探しに困ることはない。  そういうやり方を用いている学校もあるのかも知れないけど、とにかくミオの通う学校は、感想文を書く作品は自由という事だった。  さすがに娯楽としての漫画やアニメなんかはNGだろうけど。 「ふー。ありがとな、ミオ」  俺は目を押さえながら、ミオに夏休みの友を返した。  自分の宿題ではないとはいえ、ギッシリと課題が詰まった冊子を一通り読んだ事で、心身共にドッと疲れが出てしまったのだ。 「大丈夫? お兄ちゃん」  両手で冊子を抱えたミオが、心配そうに俺の顔を覗き込む。 「ああ、大丈夫だよ。ちょっと子供のころを思い出して、疲れちゃったけどね」 「お兄ちゃんが子供の時も、こんな宿題が出てたの?」 「内容は全く一緒ってわけじゃあないんだけどね。でも、だいたいそんな感じの課題を、夏休みの期間中に必死こいてやってたな」 「そうなんだ。ボクはこんな宿題をもらったの初めてだから、ちょっとワクワクするよー」  宿題にワクワクするって、勉強が得意なミオならではの感想だなぁ。 「施設にいた時は、宿題は無かったの?」 「うん。ボクは学校に行かないで、ずっと施設でお勉強してたから……」  という答えに対し、なぜミオが、俺に迎え入れられるまで学校に通っていなかったのかを尋ねる事もできたのだろうが、あえてそうしなかった。

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