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19.いざ、リゾートホテルへ(10)

 ネットの公式サイトやパンフレットなどであらかじめ情報を仕入れはしていたが、まさか、ポーターさんによる部屋案内のサービスまで用意されているとは思わなかった。  ここまでロイヤルなホテルに泊まるのは初めてだし、まるで要人をもてなすかのような厚遇を受けた経験も無いものだから、何だか気後れしてしまう。  ミオの方も、お泊まりの場所がこんなに広大かつ荘厳華麗(そうごんかれい)だとは思っていなかったようで、さっきから俺の後ろでシャツの裾を握ったまま、何かを警戒しつつ周囲をキョロキョロしている。  まさかとは思うが、取って食われる心配でもしているのだろうか。  それにしても豪華だなぁ、広いホテルだからってのは分かるんだけど、エレベーターが三つもある。  内部にある操作盤の横では、客が退屈しないように工夫しているのか、十インチくらいのモニターを使って、ここ、佐貴沖島(さきのおきしま)の名所を紹介する映像を流している。  こういうところにも、島に対するホテルの郷土愛が感じ取れるのは好感触だよな。 「……お部屋の説明は以上になります。それでは、ごゆっくりとおくつろぎくださいませ」  ポーターさんは荷物を部屋の中まで運ぶだけにとどまらず、客室にある設備の簡単な案内までやってくれた。  あそこまで親切にしてもらったのに、チップのひとつも渡さなくて、ほんとに大丈夫だったのだろうか。  まぁ行ってしまったものは仕方ない。とりあえず、運んでもらった荷物を開いて、いつでも出かけられる準備をしよう。 「大きいお部屋だねー」  ミオが急に活気を取り戻し、客室のあちこちを冒険し始めた。  さっきまでは堅苦しさを感じてただけに、俺と二人っきりになれた事で、緊張の糸がほぐれたのだろう。 「ねぇお兄ちゃん、ベッドが二つあるよー」 「そりゃ二人で一部屋に泊まる予約だからね。それにしても大きいベッドだなぁ」  という感想をもらした次の瞬間、ミオがスリッパを脱ぎ、二つ並んだベッドの片方に勢いよくダイブした。 「ぴょーん」  でもミオの体は小さいし体重も軽いので、ポフッというかわいい音を立てただけで、特にベッドが揺れたりはしない。 「うふふー。一度、これやってみたかったんだぁ」 「よく分かるよ。すごく包み込んでくれそうなベッドだもんな、これ」  俺も隣のベッドに腰掛け、マットレスの感触を確かめる。  手をついた部分だけをグーッと押さえてみると、その押された部分だけが沈んでいく。  何だかよく分からんが、我が家で使っているベッドのマットレスとは、根本的に構造が異なるようだ。  さらにこの客室では、宿泊客の体への負担に応じて、専用の棚に硬さや高さ、そして大きさがそれぞれ異なる枕が四種類ほど用意されている。  快適な寝心地を追求するために、こういう細やかな配慮をしてくれているのは素直に嬉しい。 「ね、お兄ちゃん。来て来てー」 「ん?」 「ほら、こっちから海が見えるよ!」  ベッドから降りたミオの後をついて行き、光が差し込んでくるパノラマビューの窓を開ける。  と、そこでは、果て無く広がるセルリアンブルーの絶景が待ち受けていた。  これが噂に聞いていた、佐貴沖島(さきのおきしま)のオーシャンビューというものか。  改めて実物を見ると感動するなぁ。 「綺麗だね……」 「うん。すごく綺麗だ」  大自然が見せるその青々しさと、穏やかな波の音に心を奪われ、それ以上の言葉が出てこなかった。  ベランダにはビーチパラソルとデッキチェアが置かれているので、のんびりと過ごしたい時は、ここに座って、ひたすら海を眺めるのもいいだろう。  こんな言い方をしちゃ悪いんだけど、佐藤がフラれたおかげで、俺とミオはこんなに素晴らしい部屋から、最高の景色を見ることができたんだよな。  またと無いチャンスなんだし、この二日間は二人で思いっきり遊んで、疲れたらしっかり体を休めて、めいっぱいバカンスを楽しむ事にしよう。

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