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20.二人の名所めぐり(1)
キャリーバッグとリュックサックから荷物を出し終えた俺たちは、ベランダのデッキチェアで小休止を取る。
ホテルまでの移動疲れを癒やし、英気を養い、ディナーの時間まで思いっきり遊ぶためだ。
チェアを目一杯リクライニングすると、サンサンと輝く太陽光がもろに目に来るので、魚釣りのために持ってきた偏光グラスをかけた。
波のさざめく音が耳に心地よすぎて、このまま目を閉じていると、すぐに眠ってしまいそうだ。
というかミオはもうすでに寝ていた。
初めてあれだけ乗り物をとっかえひっかえして、長い距離を移動したんだもの、そりゃ疲れるよなぁ。
俺は、部屋に積まれていたタオルケットを持ってきてミオの体に掛け、改めてデッキチェアに腰を下ろした。
今日の予定は、まずホテルの周辺にある観光名所を訪れ、ご当地スイーツを食べ歩いた後、一旦ホテルに戻り、夕まずめを狙って堤防で魚釣りをするつもりだ。
堤防には釣り道具一式のレンタルをできる店があるのだが、何と、その隣には厨房まで併設されているという。
何でも、釣った魚をその厨房に持っていけば、料理人さんがさばいて塩焼きにしてくれるので、とれとれの新鮮な魚料理をその場で食べられるらしい。
佐貴沖島の堤防で釣れる魚といえば、今の時期だと、ミオの大好きなアジの他、イワシやサッパなどがメインになるのだそうだ。
サッパとは、岡山県では〝ママカリ〟とも呼ばれる魚で、アジやイワシのほど大きく回遊しないのだが、食味は絶品である。
とあるおかずにすると〝マンマ〟、つまり白飯が進みすぎておひつが空になり、隣の家からマンマを〝借り〟に行ってしまうほどおいしい、という話から、ママカリという呼び名がついたのだそうだ。
いずれの魚も、塩焼きにすると大変ジューシーで美味なため、三、四匹くらい釣って島の魚を味わい、晩ご飯までのつなぎとして小腹を満たしておこうという計画を立てたのである。
「ん……」
俺の横で寝ていたミオが、軽く寝返りをうつ。
寝返りでチェアから落ちるとえらい事になりそうだが、ミオはそんなに寝相が悪い子ではないので、まず心配はいらない。
昨日までの大雨が嘘のようにカラッと晴れている今日は、湿気でジメジメして汗ばむ、というような事はなさそうだ。
いつものように早起きから始まり、荷物の忘れ物がないかをしつこく確認して、車も運転して、そしてこのホテルまでの移動や宿泊手続きを行い、さすがにちょっと疲れを感じた。
せっかく子守唄のようなさざ波の音を特等席で聴ける事だし、俺も少しだけ仮眠を取って、体を休めておこう。
――それからおよそ一時間後。
昼下がりの午後。照りつける太陽の位置が少し変わり、ジリジリとした暑さになってきたので、自然と目が覚めた。
そして起き上がった俺の体には、いつの間にかタオルケットが掛けられている。
隣で眠っていたミオが先に起きて、自分に掛けられていたタオルケットを、まだ寝ていた俺が日焼けしないように、気を遣ってかぶせてくれたのだろう。
その後部屋に戻ったミオは、自分のリュックサックに入れて連れてきた、ロップイヤーのウサちゃんのぬいぐるみを腕に抱き、大きなソファーの上でゴロゴロしていたのだった。
「あ、お兄ちゃんも起きたんだねー」
カンカン照りになったベランダから、冷房のしっかり効いた部屋に戻ってきた俺を、ミオはいつもの笑顔で迎えてくれる。
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