134 / 833
20.二人の名所めぐり(7)
「お兄ちゃん。ボク、かぼすロールケーキが食べたーい」
「え。そんなのがあるんだ?」
「うん。ほら、ここ見て」
ミオが持っていたメニュー表を開いて見せてくれると、そこには確かにかぼすの皮みたいな色をした、クリームたっぷりのロールケーキが写真付きで紹介されていた。
つまりこのロールケーキは、クリームの材料にかぼすを丸ごと配合してあるのか?
うーん、最初はパフェを食べるつもりで来たんだけど、そっちの方がうまそうな気もするな。
いや、あえてここはミーハーになろう。
「お兄ちゃんは何にするの?」
「俺はやっぱり、かぼすのクリームパフェだな」
「わぁー。パフェもいいなぁ」
「ロールケーキと迷ったんだけどね、せっかくだから一番人気のパフェを食べてみたくってさ」
「うんうん」
「ミオ、飲み物は何がいい?」
「えーとね。じゃあ、かぼすサイダーにしよっかな」
「かぼす尽くしか。いいじゃん」
「お兄ちゃんも同じの飲む?」
「んー。俺はアイスコーヒーにするよ」
さすがに甘いパフェに甘い飲み物を被せていくと、何となく胸焼けがしそうな予感がした。
その点、苦みのあるブラックコーヒーなら、腹が落ち着くし、なおかつ舌のリセットになるかも知れない、という期待を抱いたのだ。
店員さんにメニューを頼んで、およそ十分後。
注文の品が並んだ俺たちのテーブル周辺には、柑橘類であるかぼす特有の、爽やかで酸っぱさに満ち溢れた香りが広がっていた。
ミオが頼んだかぼすのロールケーキは、薄緑色のクリームのみをスポンジで巻いたもので、厚さ五センチくらいの輪切りにされている。
全体図をよく見ると、スポンジの生地にも、細かく切ったかぼすの皮が練り込まれているようだ。
飲み物のかぼすサイダーは、皮をイメージして着色されたのか、やや薄緑色に泡立っていた。
もちろんこれも果汁入りなんだろうな。
そしてグラスのフチには、一部をカットしたかぼすの輪切りが添えてある。
この輪切りを搾って果汁を追加して、お好みで味を調整してくださいって事なのかな?
俺が注文したかぼすのクリームパフェは、かぼすを皮ごとミキサーにかけて練り込んだのか、やはり薄みがかった緑色のソフトクリームが、容器の中心にそびえていた。
なるほど、クリームパフェとは〝ソフト〟クリームパフェという意味だったわけだな。
そのソフトクリームには、縦長のウエハースが一つ刺さっている。
一般的に、コンビニなどで販売されているソフトクリームは、アイスの部分をコーンで支えてあるのだが、そのコーンの材料としてウエハースを用いる。
あるいは、喫茶店でアイスクリームを頼んだ時に、付け合わせとしてウエハースが添えられたりしている場合もある。
なぜウエハースなのかというと、俺が昔読んだ豆知識本によれば、次のような説明だった。
ともだちにシェアしよう!