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20.二人の名所めぐり(7)

「お兄ちゃん。ボク、かぼすロールケーキが食べたーい」 「え。そんなのがあるんだ?」 「うん。ほら、ここ見て」  ミオが持っていたメニュー表を開いて見せてくれると、そこには確かにかぼすの皮みたいな色をした、クリームたっぷりのロールケーキが写真付きで紹介されていた。  つまりこのロールケーキは、クリームの材料にかぼすを丸ごと配合してあるのか?  うーん、最初はパフェを食べるつもりで来たんだけど、そっちの方がうまそうな気もするな。  いや、あえてここはミーハーになろう。 「お兄ちゃんは何にするの?」 「俺はやっぱり、かぼすのクリームパフェだな」 「わぁー。パフェもいいなぁ」 「ロールケーキと迷ったんだけどね、せっかくだから一番人気のパフェを食べてみたくってさ」 「うんうん」 「ミオ、飲み物は何がいい?」 「えーとね。じゃあ、かぼすサイダーにしよっかな」 「かぼす尽くしか。いいじゃん」 「お兄ちゃんも同じの飲む?」 「んー。俺はアイスコーヒーにするよ」  さすがに甘いパフェに甘い飲み物を被せていくと、何となく胸焼けがしそうな予感がした。  その点、苦みのあるブラックコーヒーなら、腹が落ち着くし、なおかつ舌のリセットになるかも知れない、という期待を抱いたのだ。  店員さんにメニューを頼んで、およそ十分後。  注文の品が並んだ俺たちのテーブル周辺には、柑橘類であるかぼす特有の、爽やかで酸っぱさに満ち溢れた香りが広がっていた。  ミオが頼んだかぼすのロールケーキは、薄緑色のクリームのみをスポンジで巻いたもので、厚さ五センチくらいの輪切りにされている。  全体図をよく見ると、スポンジの生地にも、細かく切ったかぼすの皮が練り込まれているようだ。  飲み物のかぼすサイダーは、皮をイメージして着色されたのか、やや薄緑色に泡立っていた。  もちろんこれも果汁入りなんだろうな。  そしてグラスのフチには、一部をカットしたかぼすの輪切りが添えてある。  この輪切りを搾って果汁を追加して、お好みで味を調整してくださいって事なのかな?  俺が注文したかぼすのクリームパフェは、かぼすを皮ごとミキサーにかけて練り込んだのか、やはり薄みがかった緑色のソフトクリームが、容器の中心にそびえていた。  なるほど、クリームパフェとは〝ソフト〟クリームパフェという意味だったわけだな。  そのソフトクリームには、縦長のウエハースが一つ刺さっている。  一般的に、コンビニなどで販売されているソフトクリームは、アイスの部分をコーンで支えてあるのだが、そのコーンの材料としてウエハースを用いる。  あるいは、喫茶店でアイスクリームを頼んだ時に、付け合わせとしてウエハースが添えられたりしている場合もある。  なぜウエハースなのかというと、俺が昔読んだ豆知識本によれば、次のような説明だった。

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