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20.二人の名所めぐり(9)

「ミオ、そのかぼすを搾って入れてみたら?」 「そだね。入れてみるー」  ミオはグラスのフチに添えてあったかぼすをぎゅっと搾り、出て来た果汁をサイダーに混ぜる。  そしてまた少し、口に含み、舌で転がすように味わい始めた。  さて、サイダーと佐貴沖島(さきのおきしま)の名産品、かぼすのマッチングはいかに。 「あ! ちょっと甘くなったよ」 「え。ほんとに?」 「うん。おいしいからお兄ちゃんも飲んでみてー」  ミオに再度おすそ分けしてもらってサイダーを飲んでみると、確かに少し甘くなっている。  かぼすってレモンと同じで酸っぱいものだとばかり思っていたが、果肉から搾り出た果汁は意外と甘味が強いものなのか。  あるいは、かぼすを足す前のサイダーのレモン味が強すぎて、それを果汁で中和した感じ?  何にしても、うまいことには違いない。  かぼすのクリームパフェにロールケーキ、そしてサイダー、全部に個性があってうまい。  特にロールケーキは、かぼすが持つ爽やかな香りと甘味、そして色味をうまく生かしてあったので、普通にスイーツ店に並んでもおかしくないほどの逸品だった。  行列のできる店を避けてここにやって来たのだが、その判断は大正解だったようだ。 「いやぁ、うまかったな」 「かぼすって初めて食べたけど、あんな味だったんだねー。甘くてすごくおいしかったよ」 「何せこの島の名産品だし、みんなに知ってもらうために工夫して、いろんなメニューを作ったんだろうな」 「なるほどー。お部屋に帰ったら、忘れないように日記に書いておかなくちゃだね」  そっか、ミオは夏休みの宿題を毎日欠かさず書くために、日記帳を持ってきてたんだっけ。  実にまじめだなぁ。この子なら、夏休みの友に書かれた課題を埋め尽くすまで、さして時間はかからない事だろう。 「おみやげ屋さんにも寄ってみようか?」 「うん。何があるのか見てみたーい」  甘いものを食べた腹ごなしとして、俺たちは繁華街をもう少し散策し、みやげ物店を見て回る事にした。  会社に持って行くみやげ物はホテルの売店でも買えるので、ここでは主に佐貴沖島ならではのグッズなどを物色してみるつもりだ。  こういうみやげ屋さんを見ていて不思議に思うのは、明らかに売れなさそうな工芸品を並べて商売している店が、一つや二つはあるという事。  例えばこの島は、さっき食べたかぼすが最も有名で、それに次ぐのがガラスを用いた綺麗な工芸品だ。  佐貴沖島はガラスの材料となる鉱物の石英(せきえい)が多く採掘されるため、職人はそれを加工して石英ガラスのオブジェや、ガラスビーズのアクセサリーなどを作る。  それはそれで珍しいものであるため、大変に人気のあるみやげとして売れていくそうなのだ。  が、それらの特産物に全く関係ない木彫りの動物だとか、やたら大きいひょうたんなどばかりを置いている店は、実に閑散としている。  いち観光客の俺が心配するような事ではないのだろうが、ああいうお店は、ほんとに商売として成り立っているのか気にはなるのである。  昔はそっちの方が主流で、時の流れと共にトレンドが変わったのかも知れないな。  そんな閑古鳥が鳴く店を横目にしつつ、俺たちはそこそこ賑わっているみやげ物屋さんに立ち寄り、店中に陳列されているおみやげを眺めてみる。 「あっ。このキーホルダーかわいいー」  ミオが手に取ってみたのは、ガラス玉に緑色の着色料を混ぜて作った、かぼす形状のキーホルダーだった。  おそらくこれも石英ガラスで作った品物なのだろう、ツヤがあってすごく綺麗だし、何より遊び心がある。  そういや、ミオに家のカギを持たせた時は、無くさないよう、ネックレスのように首からぶら下げさせていたんだっけな。  せっかくの機会だから、キーホルダー型に変えて持ち歩かせてあげようかなぁ。

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