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20.二人の名所めぐり(10)

「ミオ、それ買ってあげよっか」 「え。いいの?」 「うん、お家のカギに付けたらかわいくなるだろ?」 「ありがと。すごく嬉しいよー」  ミオも喜んでくれた事だし、石英ガラスのかぼす型キーホルダーを一個お買い上げ。  その他にもかぼすのマスコットキャラが描かれたピンバッジや、かぼすがたくさん入ったお菓子とドレッシングなども購入し、満足したところで店を出る。  ふと時計を見ると、現在の時刻は午後五時近くを指していた。  そろそろ夕まずめを意識する時間帯ではあるが、あと一ヶ所くらい名所巡りして、それから魚釣りに行こうかな。 「お兄ちゃん、次はどこに行くの?」 「うーん。ここから一番近いのが映画村らしいんだけど、さすがに今からじっくり見ている余裕はないかもなぁ。魚がよく釣れる時間帯を逃しちゃいそうだしね」 「じゃあ、ここはどう?」  と、ミオがパンフレットの周辺案内図に書かれたスポットを指差す。  そこは、この繁華街から少し離れたところにあるようで、〝天然温泉足湯〟と紹介されていた。 「お、足湯かぁ。しかも天然温泉なんていい感じじゃん」 「でしょ?」 「よし、ここに行こう」 「うん。行こ行こー」  俺たちは繁華街を抜け、歩道の脇に立てられた案内板に従い、足湯のあるスポットを目指す。  案内板の紹介によると、どうやら足湯は最近できた道の駅に併設されたようだ。  温泉が湧いたから道の駅を建てる事にしたのか、道の駅を建てている途中に温泉が湧いたのか、どちらが先かは判然としない。  ただ、その道の駅は足湯だけでなく、じっくりと旅の疲れを癒せる温泉施設を売りにしているので、車中泊をする人なんかには人気が高いのだそうだ。  つまり、そういう人たちは車ごとフェリーで移動してきて、そこそこ広い佐貴沖島を泊まりがけで旅して回っているのだろう。  バスで移動中にレンタカーの案内をしていたし、それだけこの島には、見ておきたい観光スポットがたくさんあるという事なんだろうな。  当初は俺たちも、レンタカーで観光地めぐりをするかどうかを話し合ったが、せっかくリゾートホテルに泊まるんだし、今回はそのリゾート施設を存分に堪能しようという事に決めたのだった。  だから今回の旅行では、訪れる場所はホテルからせいぜい五キロ周辺の、徒歩でも行ける観光地だけにする予定で来たのである。  その五キロ以内に道の駅を建てた理由の一つには、ホテル周辺が盛んで儲かっているから、その人気にあやかりたいという思惑があったのかも知れない。  あくまで俺の想像だけど。 「お兄ちゃん、道の駅が見えてきたよー」 「ほんとだ、結構でかいんだなぁ」  繁華街から歩くこと、約十数分。ようやく見えてきた建物には〝道の駅 佐貴ふれあいの里〟という大きな看板が掲げられていた。  休憩所と売店を兼ねた施設の横にある足湯では、すでに先客が数人ほど足を浸している。  どうやらこの足湯は無料らしいのだが、足拭き用のタオルを一枚二百円で販売しており、そのタオルには道の駅の名前と島の名所が描かれてあった。  これ、足湯の維持費は取らないけど、タオルをみやげ物にするから買ってね、って事なのかな?  まぁ今持っているタオルは汗拭き用だし、せっかくここまで来た事もあるので、記念の意味合いも込めて、二人分のタオルを購入しちゃおう。  足拭きの準備も整い、履き物を脱いで素足になった俺たちは、老若男女の観光客たちで賑わう、天然温泉の足湯をじっくりと利用させてもらう事にした。

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