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21.魚釣りと温泉(6)

「お兄ちゃん、食べようよー」 「……あっ。そ、そうだな。さっそく食べようか」  しかし大きいなぁこのアイゴ、さっきは目測で二十センチオーバーだと思ったけど、改めて皿の上に乗った実物を見ると、三十センチ近くはありそうだ。  そりゃあ手応えのある引きをするよな。  激痛を伴う毒ヒレで釣り人を困惑させるこのアイゴだが、一応魚なのでご多分に漏れず、地方によって呼び方が違う。  九州の某地方では〝バリ〟と呼ばれ、あるいは〝アイハゲ〟なんて男が気にするような名前が付く地方もあり、さらには〝ネションベン〟なんて蔑称(べっしょう)をつけて()み嫌っている地方もあるそうだ。  なぜそんな呼び方になるのかというと、アイゴはとにかく皮と内臓が臭うそうで、何の処理もしないとアンモニア臭がきついため、とても食えたものではないらしい。  だから、仮に毒のあるヒレを全部除去したとしても、そのあまりの臭みに嫌気がさして、やっぱり家に持ち帰るのは断念した、なんて釣り人もいたかも知れない。    ただ、この塩焼きになったアイゴは(うろこ)を取り、皮のぬめりを洗い落とし、内臓もしっかり除去してから塩をまぶして丹念に焼かれているので、若干香ばしくなったような気がする。  さらに、臭い消しの追い打ちとして強い味方になってくれるのが、塩焼きの横に添えられた柑橘類(かんきつるい)のかぼすである。  こういうところでも島の名産品を付け加えて提供するサービスに、ホテル側の郷土愛を感じる。  せっかくだからアイゴにはかぼすを搾り、果汁をたっぷりとかけてからいただくとしますか。 「イワシ、すっごくおいしいよー」  先に食べ始めていたミオが、あまりのおいしさに感激している。 「そのくらい大きいイワシなら、脂が乗っておいしいんだろうなぁ」 「うん。身がホクホクしてて、脂が口の中でじゅわっとするの」 「イワシはおいしい上に栄養が豊富だからね。青魚の中でも比較的たくさん釣りやすいし、ほんといい魚だよな」 「こんなにおっきなイワシが、たくさん釣れるの?」 「うーん。こんだけ成長してるイワシの場合だと、生まれて二年くらい経ってるはずだから、普通の堤防からだとなかなか釣れないかもね」 「そうなんだ。じゃあここで釣れたのって珍しいんだね」 「まぁ地域性によりけりだな。イワシの種類にもよるけど、ミオが今食べてるマイワシは、陸から釣るならそのくらいが一番大きいらしいよ」 「陸から?」 「うん。でも海上、つまり船に乗りながらの釣りなら、もっと大きいのが狙えるって事かな」 「へぇー。でも、あんまり大きすぎるイワシを食べたら、ボクお腹いっぱいになっちゃうかも」 「はは、そうだね。俺でもそんな大きいのは、一匹食べられれば充分だよ」  一般的な堤防、あるいは波止場、釣り公園なんかで釣れるイワシは、平均的なサイズもそんなに大きくないから、唐揚げや天ぷらにするといいらしい。  だが、この釣り公園で塩焼きオンリーの調理サービスを提供している理由は、それだけ大きなイワシが釣れやすいから、魚の持つ味を最大限まで生かしたい、というホテル側の思惑があるのではないだろうか。  まぁ俺が釣ったのはアイゴだけど。  さて、俺の人生初となるアイゴの塩焼きは、果たしてどんな味がするのだろうか。

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