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23.作戦会議(3)
俺たちがディナーを食べに行った地下一階のフードエリアには、高級レストランや回らない寿司屋、料亭などが店を構えており、いずれも宿泊客で賑わっていた。
つまり、ホテル側はそれだけおいしくて人気がある料理屋を積極的に誘致し、チェーン店の契約を締結 したという事になる。
ディナーバイキングでさえあんなにうまかったのに、本格的な料理店の出すメニューに、外れなどあろうはずがないのである。
「よーし。ミオ、これから明日の作戦会議をしよっか」
「作戦会議って、何をするかを決めるって事の?」
「そう。行きあたりばったりでわちゃわちゃしてたら時間を無駄に使っちゃいそうだから、あらかじめ計画を立てておこうかと思ってね」
「そうだね。んじゃ作戦会議しよー」
という事でまずは、ホテルにチェックインした時に渡された、各種施設やアクティビティを紹介している案内の冊子を開く。
「お兄ちゃん、明日はこの、ペダルボートってのに乗るんだよね?」
「うん。これは足で漕 ぐボートだから、手漕ぎのやつよりも楽だと思うし、何より二人乗りができるからね」
「でも、足で漕ぐボートって、右とか左に行く時はどうするの?」
「ハンドルが付いてるんじゃないか?」
「なるほどー。お兄ちゃんが運転する車みたいな感じなんだね」
と、ミオが感心する。
ネットで現物の写真を見た限りだと、ペダルで漕ぐ事ができ、そして最大で四人まで乗れるというアピールがなされていただけなので、実は、操舵に関しては俺もよく分かっていないのだ。
ただ、ペダルを踏むだけでは前と後ろにしか行けないので、何らかの方向転換をする手段は用意されているはずである。
「どこまで行っていいのかな?」
「うーん。プライベートビーチで、ある程度の区画が決まっているから、そんなに深いところには行けないようにしてあると思うけど」
「よかった。あんまり遠くまで行ったら、帰るのが大変になっちゃうもんね」
「そうなんだよな。だから、たぶん大人の背が立つくらいの範囲を漕いで回って、風景を楽しむ感じのアクティビティなんだろうね」
「ふぅ。海で遊ぶのは初めてから、すごくドキドキするなー」
ミオはゆっくりと目を閉じ、両手を組んで胸を抑え、高鳴る鼓動を静めようとしている。
「それって、いい方のドキドキ?」
「うん! 楽しみな方のドキドキだよー」
「海は、プールとは違った開放感があるからね。きっと楽しくなるよ」
「そだね、それにお兄ちゃんと一緒に遊べるんだもん。いっぱい楽しみたいな」
いっぱい楽しみたい。
その言葉の意味をよく考えると、明日は海で泳いだり、ペダルボートでその辺を遊覧するだけではやや物足りないのではないか、と感じた。
かと言って、ダイビングやマリンウォークなんかは、最近になって泳ぎの基礎を覚えたばかりのミオにはまだ早すぎるだろうし、海中に潜るという未知の行為に、パニックを起こしかねない。
その他には、ジェットスキーで牽引してもらうゴムボートなどがあるが、まぁ無難なのはその辺りだろうか。
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