161 / 822

23.作戦会議(4)

「お兄ちゃん、これなぁに?」  ミオはアクティビティ案内に載っている、一枚の写真を指差して尋ねてきた。 「どれどれ。あぁ、これはグラスボートだね」 「ぐらすぼーと?」 「そう。ボートってのは船の事でね。船の底がガラスになっていて、そこから海の中の様子を眺められるって仕組みなのさ」 「そうなんだ! じゃあお魚さんを見たりできるの?」 「見られるだろうね。中には、すごく大きな魚がいるかも知れないよ」 「いいなー。ボク、これに乗ってみたーい」  おお、思わぬ食いつきのよさだ。  さっきまでは体を使って遊ぶ事ばかり考えていたが、佐貴沖島(さきのおきしま)の海中をゆったりと観察するのも楽しいだろうし、魚が好きなミオにとっては、最もうってつけなアクティビティかも知れない。  しかも、こういう体験は、夏休みの課題として出された日記帳を埋める、格好のネタになるだろうから。 「よっしゃ、じゃあ明日はグラスボートにも乗ろう」 「うん! ありがとうお兄ちゃん」  ウサちゃんのぬいぐるみを大事そうに抱えながら、ミオは俺に寄りかかって甘えてきた。 「すりすりー」 「よしよし。今日のミオは、いつもより甘えんぼうだなぁ」 「だって、今日はお兄ちゃんとずっと一緒にいられて、幸せなんだもん」  頭をなでなでされて喜んでいるミオからは、いつもと違うシャンプーのいい香りがした。  この子にとっては、すごく高級感があって、おいしいご飯を食べられるホテルに泊まれた事よりも、一日中、俺と一緒にいられる事の方が一番に来るらしい。  そう言ってもらえると、俺も里親冥利に尽きる。 「あ。でも明日は雨が止むかなぁ」  しばらく夢中で甘えていたミオは、ふと我に返り、窓の外でシトシトと降り続ける雨の心配をし始めた。 「さっきの予報通りなら、雨が降る確率は三十パーセントだろ? なら、きっと大丈夫だよ」 「だといいけど」 「ね。あんまり気にしても仕方ないって。今降っている雨なんて忘れてさ、明日もまた楽しく遊ぶ事だけ考えようよ」 「……うん、そうする。明日もいっぱい遊ぼうね」  ミオは、普段は明るい性格で、天真爛漫(てんしんらんまん)なところが魅力的なのだが、意外と心配性な一面もあるらしい。  だからこの子には、そんな心配のタネを取り除いてあげる役目を担う人が必要なんだ。  正直、俺に明日の天気を曲げる事なんてできないけど、だからと言ってネガティブな発言をしたって、何の解決にもならないからな。  そういうわけだから、俺はミオが安心して、ぐっすりと休めるように、努めて明るく振る舞ったのだった。  明日の作戦会議も無事に終わったので、ミオは課題の日記を書き、俺は現在の所持金をチェックする。  明日のアクティビティには利用料金が別途かかるので、もし財布の中身が心もとなかったら、最寄りのコンビニATMでお金をおろしてこようかと思ったのだ。  今あるお金は一万円札が四枚に、千円札が六枚。そして小銭が少々。  何だ、意外と余裕があったな。  二人分のアクティビティ利用料金と雑費を考えても、およそ半分くらい持っていけば、きっと事足りるだろう。  残りは、もしお金を落としたなどの不測の事態に備えて、保険として金庫に保管しておくか。  後は頼むぞ雨雲。空気を読んで、今日のうちにどこかへ行ってくれ。

ともだちにシェアしよう!