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24.初めての海水浴(5)
「ここ、海の水がすごく青くてキラキラしてるね」
「そうだね。実は、ミオにはこれを見せたくて連れてきたんだ。少し深いとこに来たら、太陽の光のおかげで、海の水がこんなに青くて綺麗に見えるんだよ」
「まるでジュースみたいな色してるー」
どうやらミオは、この青く澄んで見える海水に、駄菓子屋なんかによく置いてある、ビニールでパウチされたジュースを思い浮かべたらしい。
「まぁ、ジュースにも見えなくもないかな。でも絶対飲んじゃダメだぞ、海の水はものすごく塩っ辛いんだからね」
「そうなの?」
「うん。なんでそうなったのかはまだハッキリとは分かってないんだけど、とにかく海の水は全部辛いんだよ」
「ふーん。ちょっとだけ舐めてみるね」
と、ミオは自分の腕に付いた、小さな海水の粒をペロリと舐めた。
「からーい」
「だろ? 海の中に塩を溶かしたみたいなものだからね、そりゃ辛いよ」
「でもお魚さんは、こんなに辛いお水の中にずっといるんでしょ? どうして平気なのかな?」
「うーん。前テレビで見た時の話だと、魚は体に取り込まれた不必要な塩分は捨ててるから、平気でいられるんだって言ってたけど」
「なるほどー。その事、自由研究で書こうかなぁ」
俺の話を聞いて納得したミオは、夏休みの宿題で出された課題のネタを、海水と魚の関係に見い出したようだ。
じゃあ家に帰ったら、ネットでいくつかの資料を調達して、それを元に、自分なりの研究結果を書かせてあげようかな。
「ね。お兄ちゃんは泳ぐの得意?」
「ん? そうだなぁ。最初は全然泳げなかったんだけど、ある時にスイミングスクールに通わせてもらってね。何とかクロールくらいはできるようになったよ」
「クロールってかっこいい泳ぎ方だよね、ボクも、学校の先生がやってるの見たよ」
「他にもいろんな泳ぎ方があるけど、クロールは前に進むスピードが一番速いし、やっぱり見栄えもするから人気なんだろうね」
「ねぇねぇ。お兄ちゃんもクロールをやって見せてー」
「え? 俺の?」
「うん。お兄ちゃんのかっこいいところが見たいの。おねがーい」
まいったな、確かにクロールくらいはできるとは言ったが、泳ぎ方を覚えたのはもう十五年以上前の話だぞ。
あれからろくに海にも行っていない今の俺が、果たしてクロールを披露しても大丈夫なのだろうか。
というかあの泳ぎ方や息継ぎの仕方を、頭では理解していても、いざ実践するとして、体がついていけるのかどうか怪しいものだ。
が、俺だって、ミオにとって頼れるお兄ちゃんでありたいし、いいところを見せてかっこつけたいという思いもある。
何よりミオの、俺に寄せている期待感と尊敬に満ちた眼差しが、まさしく恋する乙女のそれであるため、うやむやにごまかしたり、無下 にする事はできないのだ。
よし、やるか。
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