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26.夏のマリンアクティビティ(8)

「まぁ見られりゃラッキー、みたいな感じなんだろうね」 「じゃあ、アジはいるかな?」 「アジ?」 「うん! ボク、アジが大好きだから」 「食べたいって意味で?」 「そだよ」  うーん、やっぱりお魚大好き子猫ちゃんだ。  この子にとってのグラスボートとは、魚が泳ぐ姿を見て楽しむだけでなく、食材としての品定め、みたいな意味合いもあるんだろうな。  こういう、自分の好きなものに関しては、思い出として記憶に残りやすいだろうから、きっとミオも充実した日記が書けると思う。  せっかく海底が見えるボートに乗ったんだし、俺も何らかの記録を残すために、目ぼしい魚を見つけたら、写真を撮って帰ろう。  パンフレットを再びバッグにしまい込んでいると、ボートの進行が次第にゆるやかになり、そしてピタリと止まった。  どうやら目的地に着いたらしく、また天井のスピーカーから、船長さんによるアナウンスが流れる。 「お客様にお知らせいたします。現在、このボートは水深およそ十メートルの海上に浮かんでおります。ここから見られる美しいサンゴ礁と、ソラスズメダイの群れをお楽しみください」  水深十メートルって結構深いんじゃないの、と思ったが、サンゴによっては割と浅いところまで群生してきているものもあって、船底から手が届きそうな錯覚を抱いてしまう。  そのサンゴ礁の上では、小ぶりで青く、尾っぽの黄色い魚が群れをなして泳ぎ回っていた。 「お兄ちゃん、あの青いお魚なぁに?」 「あれがソラスズメダイじゃないか? さっき放送で言ってたやつ」 「ソラスズメダイっていうんだ。綺麗だねー」 「この群れ方を見た感じだと、ここのサンゴ礁と共生している魚なのかなぁ」 「キョウセイ?」 「そう。サンゴと共に生きるって意味の共生だよ」 「じゃあ、あの魚はサンゴにエサをあげてるの?」 「どうだろう。魚の方は、単純に隠れ家にしているだけじゃないかな」 「隠れ家なんだ?」 「たぶんだよ。たぶん、サンゴの隙間を利用して、天敵から身を守るために隠れるんだろうな、と思ったのさ」  ほんとはもっと正確な回答をしたいんだけど、俺自身、ソラスズメダイの名前も姿も、今しがた知ったばかりだしなぁ。  だから、昔テレビで見た、サンゴ礁に棲む魚の生態などを頼りに、一般論としてでしか答えてあげる事ができない。 「写真撮っとくか。こんな間近で綺麗なサンゴ礁はなかなかお目にかかれないし、かわいいソラスズメダイも、ここでしか見られないかもだからね」 「うん。小さくてかわいいよねー」  俺は両手でスマートフォンを構え、シャッターチャンスを伺う。  ややオレンジがかったサンゴの上で泳ぎ回る、青くて小さい魚の群れはそれだけで写真映えするから、ぜひ記録に残しておきたい。  できるだけ、サンゴとセットでたくさん群れているところを撮りたかったので、撮影にはかなり時間をかけた。 「よし、撮れたぞ。ミオ、これでどうかな」 「わぁ。すごく上手に撮れてるー」  狙いすまして撮った魚とサンゴの写真を見て、ミオが絶賛してくれた。  苦労した甲斐があったな。これでまた、二人の思い出が一つ増えたってわけだ。

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