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26.夏のマリンアクティビティ(9)
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「ソラスズメダイって食べられる?」
「た、食べ……いや、ちょっと俺には分かんないな」
我が家のお魚大好き子猫ちゃんは、ソラスズメダイの食味にも興味しんしんである。
「どっちかと言うとペット向けじゃないか? あんなに小さくて綺麗な魚がいたら、水槽で飼ってみたくなったりしてさ」
「じゃあ、食べた人はいないのかな」
「たぶん……」
と言うかソラスズメダイって、俺たちが住んでいるところの近くにある海じゃ、まず釣れる魚じゃないような気がする。
沖縄みたいな、本州とはちょっと違う生態系を構築している海だったら、わりかし普通にああいう感じの魚も釣れるんだろうけど。
「それでは、次の〝ウミガメ観察ポイント〟まで移動いたします」
「え?」
船長さんによるアナウンスに、俺は思わず耳を疑った。
この海には、ウミガメ観察ポイントなんてものが存在するのか?
そりゃ長年グラスボートを運航させているから、ウミガメのいそうな場所は掴んでいるとは思うんだけど、だからといって毎時間その場所に留まっているわけじゃないよな。
ウミガメにだってやる事はあるんだし。
なんで俺がウミガメの心配をしているのか分からないが、要するにあれだ、ホエールウォッチングみたいなものなのだろう。
クジラの気まぐれを見られればラッキー、見られなかったら残念賞。
そういう感じの、ゆるーい期待感を持っておけば、いざウミガメが見つからなくても、さほどガッカリはしないはずだ。
……というのは、あくまでも俺や他の大人たちのような、あらかじめ何かを悟っている客だけに限った話。
ミオを始めとする、夢を持ったいたいけな子供たちは、さっきのアナウンスによって、ウミガメが見られるという確信を持ち、心を躍らせているかも知れないのである。
もっともホテル側も、ウミガメを見せられるポイント探しに相当な自負があって、毎便ああいう案内をしているのだろうから、信じてみるとするか。
「ねぇねぇお兄ちゃん、ウミガメって」
「食べないぞ」
「えぇっ!? 違うよー」
ミオが困ったような顔で否定した。
厳密には、ウミガメは小笠原諸島などでは食用にもなるらしいのだけれども、さすがに進んで食べようとは思わないので、先手を取って決意表明だけはしておく。
「ウミガメって、卵を産む時に泣くんでしょ? あれはどうしてかなぁって思ったの」
「ああ、そういう疑問か。俺が聞いた話だと、確か、ああして泣く事で、体の中の余計な塩分を外に出してるらしいよ」
「そうなんだ。じゃあ悲しくて泣いてるわけじゃないんだね」
「うん。魚と同じで、いらない塩分を出すのは、海で生活していくために必要な行動なんだろうな」
「なるほどー。海の水は辛いもんね」
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