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26.夏のマリンアクティビティ(10)
ウミガメが産卵の際に涙を流すってのは、テレビやらネットにおいて散々見た話で、その事情についても詳しい説明がなされている。
ただ、我が家に来る前のミオは、ネットはもちろんのこと、テレビすらほとんど見ていなかったのだ。
そういう側面があるので、見慣れない生物の不思議な現象について尋ねたくなるのは、知的探究心のある子なら至極真っ当に働く心理だと言えるだろう。
俺が小さいころもそうだったから分かる。
だからこそ、ミオの抱く疑問には、できるだけ答えてあげたいと思うのである。
「当グラスボート、〝マリーンサキシマ号〟は、たった今ウミガメ観察ポイントに到着いたしました。みなさま、どうぞ海中の様子にご注目ください」
このグラスボート、そんな名前が付いてたんだ。アナウンスで初めて知ったよ。
「ウミガメいるかなー。楽しみだね」
「いてくれると嬉しいんだけど、こればっかりは運じゃないかなぁ」
首輪とリードを付けて飼っているならともかく、自然の生き物なんだから、むやみに観察ポイントなんて言わない方がいいんじゃないの? と俺は思うのだが、これもホテルの方針なんだろうな。
ただ、ここがそんなにぬか喜びさせる事ばかり口走るような、いい加減なホテルではないのも充分承知している。
だから、きっとこの見せものにも、何らかの勝算があるのだろう。
「あっ。お兄ちゃん、あそこ見て!」
「お? ウミガメがいたの?」
「んーん。ほら、あの魚の群れ。すっごいよー」
ミオが指差したその先では、そこそこ大きいサイズの魚が、ものすごい数で群れをなしていた。
「現在ご覧いただいている魚の群れは、ここ、佐貴沖島 近海で最も多い漁獲量を誇るカツオで、その群れる様子は佐貴沖 の素群 と呼ばれております」
「へぇー、カツオってこんなにたくさん群れるんだ。壮観だなぁ」
「カツオってお兄ちゃんが昨日食べてたお魚でしょ? すごくキラキラしてるねー」
「カツオも一応、青魚の仲間だからね。あの銀色の魚体はかっこいいよなぁ」
その銀色で大きな魚があんな数で群れて行動するのは、やはり回遊するためなのかな。
よくよく考えれば、カツオ漁で一本釣りなどをやるために漁船を出すのは、そこに群れがあるからなんだな。
だから毎年、たくさん獲れるのだろう。
「今日もカツオの料理あるかな?」
カツオの群れを目で追っていたミオが、ディナーバイキングの事を考え出した。
「あるんじゃないか? 今の時期はよく獲れるらしいからね」
「じゃあ、ボク今日はカツオを食べるー」
このシチュエーションでそういうセリフが出るのは、いかにも魚好きなミオらしいよな。
もっとも、魚を食べたいと思い立って実行に移すのは、健康面から考えても実に結構な事だ。
スーパーの鮮魚コーナーでも、魚を食べれば頭が良くなる、みたいな歌を流して、さかんに魚食をPRしているわけだし。
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