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27.再会、そして(7)

「ここ、あんまりお客さん来ないねー」 「まだ六時前くらいだし、遊んでるんじゃないか?」 「海で泳いでるって事?」 「たぶん。後はプールとか、ホテルの中でも遊べるところがあるしね」 「ホテルの中で遊ぶって、何するの?」 「俺もさっき調べて知ったんだけど、二階には結構大きなゲームコーナーがあるんだよ。ビデオゲームとダーツ、後はビリヤードなんかで遊べるらしいよ」 「ふーん。そうなんだ」  という素っ気ない返事から察するに、ミオはビデオゲームという単語には特に惹かれるものが無いようだ。  以前ウサちゃんパークの話をした時に、ゲームセンターの名前が出た事がある。  あの時のミオの乗り気じゃない返事は、人混みが嫌だから興味を示さなかったんだと俺は思っていた。  でも、混み合うのが苦手なだけじゃなくて、単純にビデオゲーム自体を遊んでみたいという気にならないのだろう。  それ自体は悪い事じゃないんだよな、ゲームに没頭して勉学がおろそかになるよりは。  ダーツとビリヤードはアナログな遊び、というか競技性のある一種のスポーツでもあるわけだが、ゲームとひと括りに紹介したのがまずかったようだ。 「他にも何かあるの?」 「んーとな。後はエステサロンとか、カラオケルームかな。エステは遊びじゃないけど」 「カラオケってなーに?」  えっ、ミオはカラオケを知らないのか。  内心驚いたが、二歳のころから最近に至るまで、厳格な教育方針の児童養護施設で暮らしていたら、あまりそういう娯楽の情報は入ってこないんだろうな。 「カラオケってのはね、防音っていう、音が外に漏れない部屋で、マイクを使って歌を歌う遊びなんだよ」  適切な言葉が思い浮かばないので、カラオケを〝遊び〟の範疇(はんちゅう)に入れて説明してしまったが、あながち間違いでもないだろう。  プロの歌手が練習するんなら話は別だが、俺たちみたいな一般人がカラオケで歌うのは、あくまで趣味の範囲であって、同時にストレス解消法でもあるわけだから。 「どんな歌を歌ってもいいの?」 「そうだよ。機械に入っている曲なら勝手に演奏してくれるから、それに合わせて歌えばいいのさ」 「へぇー。それ、ちょっと面白そうだね」  おや、ミオはカラオケには好感触か。  我が家に迎え入れてからはよくテレビも見るようになったし、最近のヒットチャートで歌ってみたい曲があるのかもな。  一学期の終わりに見せてもらった通知表によると、ミオの音楽の成績はすこぶるいい方だった。  その通知表だけは歌うのがうまいかどうかまでは分からなかったが、とにかくこの子はかなりの美声ではある。  だったら、この後二人でカラオケルームに行く流れになれば、まだ触れた事のない、ミオの歌唱力を知る貴重な機会になるかも知れないわけだ。

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