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27.再会、そして(9)

 かたや、ミオは無表情のまま、ジッと俺の顔を見つめてくる。その視線がとても痛い。  そんな顔をしなくたって、俺もちゃんと覚えてるんだよ。妊娠の話をしてあげたあの時に、二人の間で結婚の約束をした事は。  でも、それをこの場で話してしまったら、一体どんなリアクションが返ってくるのかと思うと、とてもじゃないけど打ち明けられないんだ。  お茶を濁すってわけじゃないけど、とりあえず、ミオにレニィ君を紹介しよう。 「ミオ。この子は如月レニィ君だよ」 「……知ってる」 「そ、そっか。じゃあ、そのぉ」  ダメだ。これ以上、言葉が出てこない!  ご挨拶しなさい、なんて言おうものなら、ミオとレニィ君の優先順位がこじれるおそれがある。  そもそも優先順位も何も、ミオは俺一筋で、俺もミオが好きだから相思相愛なんだが、そこに割って入るかのように現れたのが、このレニィ君という、これまたかわいいショタっ娘なのである。  だからミオはポーカーフェイスを装ってはいるが、俺がレニィ君に取られやしないかと、尋常でないくらいに警戒するオーラを放出しているのだ。  何て気まずい空気になっちまったのか。ここには、のんびりと温泉に浸かりに来ただけだっていうのに。 「唐島未央(からしまみおう)です。初めまして」 「初めまして! 如月レニィです……あれ?」  ミオの名前を聞いたレニィ君は、視線を斜め上に移し、何かを考え込みだした。 「未央さんって、柚月さんとは名字が違うんですね」 「あ。それはその、いろいろ事情があってね」  ミオは、俺が里親になって迎え入れた子だと、今ここで言う必要はないだろう。  レニィ君には悪いけど、佐藤のような、気心の知れた同僚たちならまだしも、昨日今日知り会ったばかりの人に、ミオの生い立ちを話すつもりは毛頭ない。  できる事なら、今すぐにでもこの場を離れたいところなんだけど、それじゃせっかく俺との再会を喜んでくれたレニィ君には悪いしなぁ。  一体どうしたものか。 「レニィ君はハーフなの?」  若干重苦しい雰囲気が漂う中、先に口を開いたのは、意外にもミオの方だった。  実を言うと、その質問の内容には俺も興味があったんだよな。  これだけツヤがあって、ナチュラルな黄金色(こがねいろ)の髪の毛は、まず毛染めじゃ出せないだろうし、そもそもレニィ君ほどのマジメそうな子が、非行に走っているとも思えないし。 「はい! パパは日本人で、ママがアメリカ人なんですよ」 「へぇー。じゃあレニィ君はママさんに似たのかな?」 「そう……だと思います。あはは」  俺の質問に対し、本人は自信なさげに答えているが、この麗しいブロンドヘアーと美少女顔は、どう考えても日本人の父親譲りではないだろう。  強いて言えば、眉毛の黒さだけはお父さんに似たのかも知れないが。  という事は、ミオも顔は母親譲りなのかな。  いや、そんな詮索はよそう。今ここにいるミオが俺の全てなんだから。  事情が事情なだけに、ミオが誰に似たのかという話題には持っていかないよう、発言には慎重を期さなければならない。

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