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28.夜遊びの約束(2)

「途中に口を挟んじゃってすみません。サウナが大変なところ、ってお話でしたよね」 「そうだね。まぁ大変と言えば大変かな。サウナは窓のない個室になっててさ、その中はすっごく熱いから、そういうのが苦手な人は、我慢できなくなってすぐ飛び出しちゃうんだよ」 「そんなに熱いんだー。でも、どうしてサウナって熱くしてあるの?」  サウナというものをよく知らないミオにとっては、何でわざわざ、好んで熱いところへ入るのか、理解し難いのだろう。  これはサウナ自体の〝意義〟というものから説明してあげる必要がありそうだ。 「サウナってのは、いわゆる風呂の一種でね、蒸し風呂なんだよ」 「蒸し風呂……」 「そう。熱気浴とも言われるんだけど、割と昔からあるお風呂なのさ。熱気っていう熱い空気と湿気で蒸す風呂だから、お湯には浸からないんだけどね」 「へぇー、そんなお風呂があるんだ」 「元はフィンランドっていう寒い国で体を温めるためにやってたんだけど、六十年くらい前に、日本にも導入されたんだよ」 「なんで?」 「いろいろ理由はあるけど、一番は健康のためだろうね。サウナでたくさん汗をかくと、体の中の血のめぐりがよくなって、疲れが取れやすくなるらしい」 「そうだったんですね。さすが柚月さん、お詳しいです」  レニィ君は尊敬の眼差しで俺を見つめてくるのだが、実はこの話、俺が初めてサウナに入った時に、壁に貼られていた〝サウナの効能〟なる説明書きの受け売りなのだ。  たくさん汗をかけばダイエットになるかも知れない、という淡い期待を抱いてサウナにこもる人も(まれ)にいる。  だが、汗として流れ出た水分の量だけ体重が減ったとしても、今度は脱水症状や熱中症にかかるおそれがあるので、痩身(そうしん)を目的とした利用には向かないだろう。  どうせサウナから出て、かいた汗の分だけ水を飲めば、元通りになっちゃうんだから。  という、サウナを利用する上での危険性と注意点を、できるだけミオを始めとする子供たち向けに分かりやすく、噛み砕いて説明しておいた。  その説明を神妙な面持ちで聞いていたレニィ君は、サウナ耐久を軽い気持ちでやっていたユニィ君をたしなめる。  大切な弟の体が心配だからこそ、もう無茶はしないようにと、釘を刺しておく必要があるのだろう。  レニィ君は気が弱そうな性格だと思っていたけど、兄としての役割はしっかり務めているんだなぁ。 「お待たせいたしました。バナナスムージーのお客様」 「はーい」  サウナについての話を終えたあたりで、ウエイトレスさんが、四人分の飲み物を運んできてくれた。 「ご注文は以上でよろしいですか?」 「はい。以上で」 「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」  現在時刻は午後七時のちょっと前。  ディナーバイキングの終了時刻が午後九時なので、まだまだ時間的な余裕はある。

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