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28.夜遊びの約束(4)

「まぁ分かるよ。俺もこれだけはダメだってのはあるしね。臭いがきついやつとか」 「お兄ちゃん、臭いがきついってどんなの?」 「んーとな。納豆とかは大丈夫なんだよ。でも、ドリアンだけは無理だったな」 「ドリアン?」 「そう。果物なんだけどね、皮のあたりからネギが腐ったような変な臭いがしてさ、結局一口も食べられなかったよ」 「えぇーそんな臭いがするの? じゃあボクも食べたくないなぁ」 「そうそう。嫌なものは無理に食べるもんじゃないよ。それに、ドリアンなんて日本じゃめったに売ってないしね」  対面に座っているレニィ君が、ミルクティーで満たされたグラスを両手で包むように持ち、コクコクと何度も頷く。  弟のユニィ君に魚嫌いを暴露された事について、誰にでも好き嫌いはあるっていうフォローを入れる意味でもドリアンの話題を出したんだけど、あの臭さは、ほんとに好きな人じゃないと食べないから。  年端も行かぬ子供の野菜嫌いを克服するとかならともかく、その人の本能で「これは食べたくない」って思ったものは、無理して食べても、たいてい良い結果にはならない。  それが二十七年生きてきて、身を(もっ)て分かっているからこそ、俺は人に無理強いはしないのである。  今のところ、うちのミオには、さっき話題にあげたドリアン以外に、そういう苦手そうな食べ物は無いようだけど。 「ねぇお兄ちゃん、カラオケルームって何時からやってるの?」 「館内施設の案内によると、平日の今日は夕方の五時から営業開始なんだってさ。つまり、今からでも行けるって事だね」 「そうなんだー。でもカラオケルームってどこにあるの?」 「三階にあるらしいよ。確か、外の景色を眺めながら歌えるのが売りだって書いてあったな」 「という事は、オーシャンビューなんですね。すごく素敵です!」 「え?」 「ぼくたちの泊まってる部屋からじゃ、海なんてぜーんぜん見えなかったもんねぇ」 「いや、オーシャンビューかどうかはまだ……」  行ってみないと分からない、と言いかけて、俺は口をつぐんだ。ここで、あんまり夢のない話をしてがっかりさせるのもな。  カラオケルームに着くころには、どうせ日が落ちてで真っ暗だから海なんて見えないのだろうが、たぶんホテル側にも、窓からの眺望に関しては何らかの算段があるのだろう。 「でも、窓があるんだったら、そこから音が漏れちゃうんじゃないの? お泊まりしてる人に聞こえちゃわないのかなぁ」  期待に胸を膨らませている如月兄弟をよそに、ミオが鋭い指摘をする。

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