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28.夜遊びの約束(5)
「確かに音が漏れる心配はあるよな。でも、そのカラオケルームも、たぶん防音ガラスを使っているから大丈夫だと思うよ」
「防音ガラス?」
「うん。厚めのガラス二枚の間に、特殊な防音フィルムを挟んでおけば、音は逃げないし、窓の外の景色も見えるようになるんだ」
「なるほどー」
これだけ立派なホテルだと、どんな些細なクレームにも対応できるように万全を期しているだろうから、防音に関しても、きっと抜かりはないはずだ。
「さて。今の時間から考えると、カラオケルームには、だいたい八時半くらいに行くのがベストかな?」
「えっと……そうですね。そのころには、僕たちも夕食を食べ終わって、部屋に戻っているころだと思います」
「そっか。じゃあ、八時半前には現地で落ち合おうか」
「はい。遅刻しないように気を付けますね」
「あ、ちょっと待てよ。レニィ君たちのご両親には、俺から直接、話を通しておいた方がいいよなぁ」
「あのぉ、それ絶対無理だと思いますよ」
そう言い切ったのは、兄ではなく、弟のユニィ君の方だった。
「え。む、無理?」
「そッス! うちのパパとママは、誰にも会いたがらないから」
「それは、疲れているからって事?」
「……それもありますけど、パパもママも、ホテルにまで仕事を持ち込んできちゃって、そっちの方に集中したいんだそうです」
「えぇー。じゃあ、晩ご飯の時に会ってお話するとかじゃダメ?」
ミオがギリギリの妥協案を持ちかけたが、如月兄弟はシンクロして首を横に振る。
この子たちはその理由について語らなかったが、俺は何となく察しがついた。
例えば家族揃っての夕食時。そこへ、どこの馬の骨とも分からない男がやって来て「これこれこういう理由でお子さんをお預かりしたい」って話をされても、了承はしてくれないって事だ。
分からない話ではないよな。これが逆の立場なら、俺も絶対にミオを渡さないと思うから。
なので、ご両親への説得は、兄のレニィ君が代表して行うという事で話がついた。
別に取って食われるわけでもないし、あくまで館内施設で歌を歌って帰ってくるだけなんだから、あまり遅くならないのなら、軽く話を通しておくだけでも大丈夫だと判断したのだろう。
俺としては直接ご両親にご挨拶して、しっかり筋を通すべきだと思っていたのだが、そこまで仕事優先で、人に会いたくないんじゃあ、もう取り付く島もない。
他人の家庭内事情に干渉するつもりは無いが、せっかくの家族旅行だというのに、切ないったらありゃしないな。
そういう事情を聞くにつけ、俺たちの中で、この兄弟を喜ばせてあげたい、という気持ちがますます強くなっていく。
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