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28.夜遊びの約束(10)
「な、何だよー」
「じゃあ、お兄ちゃんは女の子たちと会ってたんだ?」
「確かに会ってたけど、もう一年くらい前の話だよ。今は行ってないって」
「でもお兄ちゃん、彼女が欲しくて行ってたんでしょ?」
「そりゃまあ、合コンってそういう趣旨の飲み会だからね。それに俺は独り身だし、結婚もしたいかなーとは思ってたからさ」
「そっかぁ。んじゃ、今はもう行く必要がないよね」
「ん?」
「ボクが、お兄ちゃんのお嫁さんになるから!」
と言って、ミオは隣に座る俺の腕をぎゅーっと抱きしめた。
「もう、誰にもお兄ちゃんあげなーい」
「ははは、ミオにはかなわないなぁ」
これだけ聞くと独占欲が強いと思われるかも知れないけれど、ミオを家族として迎え入れる事に決めて、ずっと一緒にいようって約束したのは俺なんだもんな。
だからこそ、ここまで俺の事を信用し、好きでいてくれるんだ。
仮に俺が逆の立場だったとしても、きっと同じ事をミオに言っていただろう。
……さすがに、お嫁さんにまではならないけど。
男の子なのに自分の事を彼女、そして将来のお嫁さんとして積極的にアプローチできるのは、ミオのような、女の子にも負けないくらいかわいいショタっ娘の特権だから。
「あっ。お兄ちゃん、レニィ君たちが来たよ!」
俺の腕を抱いたままのミオが、エレベーターの方を指差す。
あの二人組はまず見間違えない。三つあるエレベーターの真ん中から出て来たのは、ルームウェアに着替えた如月兄弟だ。
「柚月 さん! 未央 さーん!」
「どうも、こんばんは!」
待合に座る俺たちを見つけ、手を振る二人とも、心なしか晴れやかな笑顔のように見える。
「やぁ。よく来てくれたね」
「はい! パパとママに話したら、OKしてくれました」
「レニィってば、パパたちを説得する時、柚月さんの事すっごい褒めてたんスよー」
「ユ、ユニィ!」
「え、そうなんだ?」
「はい! 柚月さんはとても優しいとか、頼もしくてかっこいいとか、もういろいろ、十五分くらいずーっと話っぱなしで」
「言わないでよぉ……」
「それで、最初は反対だったパパが根負けして、カラオケに行くのを認めてくれたんですよ」
「はは、そんな事があったんだ」
「あ、ちなみにママは説得する前からOKくれたんで」
「へぇー、割とオープンな人なんだね」
母親よりも父親の方が子供の心配をするって、まるで娘が彼氏に取られるのを警戒しているみたいなシチュエーションだな。
まぁ、このかわいらしいショタっ娘兄弟を見ていると、そういう気持ちを抱くのも分からないでもないが。
「もう、ユニィは口が軽いんだから……」
ユニィ君はご両親を説得した際の顛末を悪気なく明かしたつもりなのだろうが、レニィ君は顔を真っ赤にして、両手で頬を覆い隠している。
今日初めて会ったばかりなのに、俺について、そんな十五分も話せる事があるのに驚くな。
という話を隣で聞いていたミオの、俺の腕を抱く力がにわかに強くなったのは、気のせいなんかではないようだ。
いやはや……まいっちゃったね。
これまで、俺の〝モテ期〟はいつ訪れるんだろうかと漠然と過ごしてきたが、まさかそれが今だったとは。
お相手はいずれも男の子だけど、こんなにキュートなショタっ娘たちに気に入られるなら、やっぱり嬉しいよな。
うん。やっぱり俺はショタコンだ。
「さ、もうすぐ部屋に入れるから、先に飲みたい物を注文しちゃおう」
「はーい」
三人のショタっ娘たちが、声を揃えて元気よく返事をした。
うちのミオと如月兄弟にとっては、人生初めての経験となる娯楽、カラオケ。
果たしてこの子たちは、どんな曲を選んで、その歌声を俺に披露してくれるのか、とても楽しみだ。
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