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29.初めてのカラオケ(1)
俺たち四人が借りたカラオケルームは、本来は五人まで座れる部屋で、防音ガラスが海の方に向けて張られている。
それはつまり、この部屋から海を眺められるという事を意味するのだが、現在時刻は夜の八時半だ。
夜の海を見下ろす眺望というのは、一体どんな感じになるのか、気にはなるよな。
「わぁ。カラオケルームってこんな感じなんだねー」
カラオケ初体験のミオは、ルーム内の壁に掛けられた大型のモニターや、その下に設置されている、小型の通信カラオケ機器を興味深げに眺めている。
「僕たちも初めて来たから、すごくドキドキします……」
「あはは。レニィは緊張しいだから」
ユニィ君が今言った「緊張しい」は、主に関西にて使われる言葉で、要するに、〝緊張しやすい人〟という意味である。
佐藤がよく、合コンで俺の事を「柚月は奥手で緊張しいなんや」と紹介していたので、何となくニュアンスは伝わっていたのだ。
という事はこの如月兄弟、実は関西弁を使う、近畿地方の出身なのだろうか?
まぁ分からない話ではないよな。この佐貴沖島 唯一のリゾートホテルには、全国各地からお客さんが泊まりに来たり、結婚式を挙げに来たりするのだから、この子たちがどこから来ても不思議ではない。
「どうかな、窓の外の景色は?」
「はい! ここからなら、海がよく見えます!」
レニィ君が反対向きでボックスソファーに座り、窓に接近してプライベートビーチの様子を確かめる。
常夜灯に加え、色とりどりの電飾で美しくライトアップされた砂浜は、波打ち際までがハッキリと見えるように工夫を凝らしてあった。
ただ、いかに明るく照らしてあるとは言えども、潮の満ち引きもある事だし、何より宿泊客の安全を考慮して、夜はプライベートビーチへの出入りはできないようにしてあるそうだ。
そういう事情があるから、立ち並ぶ木々やビーチパラソルなんかに電飾を付けて、せめて見た目だけでも楽しんでもらおうというコンセプトで、夜の間はライトアップを行っているらしい。
とにかくハッキリしたのが、この部屋からならば、海を見ながら歌を歌えるという事。
「これ何だろ? レニィ、分かる?」
「えっ? 分かんないよ。何かの機械でしょ?」
「その何かを聞いてんのにー」
「だってぇ、カラオケなんて初めてだから……」
カラオケで使うデンモクを手に取った如月兄弟は、これが何なのかという議論を交わしている。
いや。議論というか、兄のレニィ君は、未知の物の正体を弟のユニィ君に尋ねられて、答えられずに困惑しているという方が正確だろう。
そういう会話から察するに、ユニィ君がまだ知らないものに対する知識は、双子の兄であるレニィ君に任せっきりにしているのかも知れない。
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