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29.初めてのカラオケ(2)

「それはね、デンモクって言うんだよー」  頭の上でハテナマークが浮かんでいそうな兄弟に、ミオが答えを教える。 「デンモク、ですか?」 「うん。お兄ちゃんから聞いたの。そのデンモクに歌いたい曲を探したり、予約をしたりできるんだって」 「なるほど、そのための機械なんですね! さすが柚月さん、何でもお詳しいです」 「はは、いやいや。俺も昔、カラオケに行く機会があったもんだから、その時に知っただけだよ」 「じゃ、このデンモクの中には、いろんな曲が全部入ってるんで?」  と、ユニィ君は某映画翻訳家がよくやる意訳のような、変わった聞き方をしてくる。 「まぁそういう事だね。曲名からでもいいし、アーティスト……つまり歌手の名前から歌いたい曲を探せるのが、そのデンモクなんだよ」 「へぇー」  詳しい検索方法を知ったショタっ娘三人が、口を揃えて感心の声をもらす。  そういや、ミオにはまだ、曲の探し方については話をしてなかったんだっけな。  昔は分厚い冊子を開いて、歌手名や曲名から、歌いたい曲を探してたもんだが、今やこのデンモクさえあれば、某ネット検索の如く、すぐに結果が出る。  ちなみにこの〝デンモク〟という名称は、カラオケ業界の大手である会社の登録商標で、もう一社の大手では〝キョクナビ〟と呼ばれる。  まぁ、どちらも平たく言うと、リモコンとして使えるタブレットであるわけなのだが、皆がデンモクデンモクと言っていると、それが通称として広く行き渡るのは、往々にしてある事だ。  おじさんたちが、朱肉の要らない三文判をこぞって〝シャチハタ〟と呼ぶのに通じるものがある。 「ね、触ってみてもいい?」 「もちろんいいよ。いろいろ試してみて、歌いたい曲があったら、予約してごらん」 「はーい。ねね、レニィ君、ユニィ君。これ、ペンが付いてるよー」 「あ、ほんとですね! これを使って、画面にタッチするのかな?」 「この〝キーワード〟って何だろ? ペンで書いて曲名を調べるとか?」  初めてデンモクに触るショタっ娘三人は、見たことのないハイテク機器のテクノロジーに対して、大いに興味を示している。  こういう機器に関しては、口頭で仕組みを説明するよりも、感覚的に触って理解する方が早いと思う。  何より、この子たちの物事を吸収する速度は、頭の固くなった大人とは比べ物にならない。  だからこそ、俺は詳しく教えるよりも、実際に画面を見て、タッチパネルに触れて操作してみて、自らの力でやり方を覚える方がいいと判断したのだ。  そういった試行錯誤も、カラオケという娯楽の、遊びのうちに入るだろうと俺は思うのである。  要は、機械を壊しさえしなきゃいいんだ。

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