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29.初めてのカラオケ(3)
「んー。この〝急上昇ワード〟ってのを押せばいいのかな?」
「探し方がたくさんあって迷いますね……」
「あ。タンバリンがあるじゃーん! へへっ」
デンモクの画面を真剣に見つめるミオとレニィ君をよそに、ユニィ君は、場を盛り上げるタンバリンへと興味が移ったようだ。
マイペースな子だなぁ、そこがこの子の魅力でもあるんだろうけど。
「失礼します、お飲み物をお持ちしました」
「あっ、はい。ありがとうございます」
ショタっ娘たちが歌いたい曲探しをしている間に、従業員さんが四人分の飲み物を持ってきてくれた。
飲み物を運んでくる際は、当然ノックして入ってくるわけだが、誰かが歌っている最中だと、そのノック音には気付かない場合がある。
ワンドリンク制のカラオケボックスだと、歌っている途中に従業員さんに入って来られて、ちょっぴり恥ずかしい思いをした……なんて経験をした人もいるだろう。
でも一応、大音量にかき消されているだけで、ノックはしているのである。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃんは何を歌うのー?」
「そうだなぁ。できるだけ、みんなが知ってる曲がいいかな」
「僕たちが知ってる曲、ですか?」
「うん。いきなりマニアックな曲を歌って、みんなに引かれるのもちょっとね」
「マニアック……?」
横文字の苦手なミオが、また知らないフレーズが出てきた事で、首をひねって考え込みだしてしまった。
「あ、ごめんごめん、今の無し。えーと、とにかく俺は、あんまり有名じゃない曲以外にするよ」
横文字を回避した事で言い回しがややこしくなってしまったが、つまり、メジャーな曲を歌えば、この子たちにも受けがいいのではないかと思ったのだ。
でもそれを言ってしまうと、ミオたちにも、有名な曲を選びなさいって強制する事にはならないだろうか。
まぁ考えすぎかな。
この子たちはこの子たちで、自分の好きな曲を大いに歌って、めいっぱい楽しんで欲しい。
「ユニィ、タンバリンは後でもいいでしょ。何を歌いたいのか早く決めてよ」
「分かったよぉ。じゃ、ぼくは『海賊三国志』の曲にするよ」
お兄ちゃんのレニィ君にたしなめられた事で、タンバリンを叩いて遊んでいた、ユニィ君の歌いたい曲が決まったようだ。
という事は、切り込み隊長はユニィ君になるわけだな。
ちなみに『海賊三国志』とは、日曜日の午前中から全国ネットで放映しているアニメの事。
世界中の海を支配する海賊どもが、自分たちの勢力拡大を巡ってドンパチする戦争ものである。
元々は、少年向けの週刊誌で連載している漫画をアニメ化した作品なので、知名度は割と高い。
うちのミオも、毎日学校でその作品についての話題に触れているため、アニメは毎週欠かさず視聴している。
どの辺が〝三国志〟なのかという疑問については、隣で観ていた俺もさっぱり分からないのだが、こういうのは深く考察しないで、その場のノリで観た方が楽しめるのだろう。
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