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29.初めてのカラオケ(6)
「そうなの? じゃあ、レニィ君もボクと同じで、プリティクッキーが好きなんだね」
「え? 未央さんもお好きなんですか?」
「そだよ。ボクも毎週、お兄ちゃんと一緒に観てるんだー。ね、お兄ちゃん?」
「うぐっ!? そ、そうだね。あはは」
思わぬアクシデントだ。ミオとレニィ君との間で『魔法少女プリティクッキー』の話題に花が咲くのかと思いきや、今度は俺に飛び火してきた。
確かにあのアニメは二人で観ているけどさぁ、それはあくまで、子供たちの間で何が流行っているかのリサーチが主目的だから。
主人公の女の子が、特に変身前の制服姿がかわいいと感じるのは、そのリサーチの副産物であって、俺は決してあの作品のファンではない。
たぶん。
「ボクね、主人公の露原 エリナちゃんがかわいくて好きなんだー」
「あ! 僕も一緒です。エリナちゃんが通う学校の制服、とてもかわいいですよねっ」
うんうん、二人ともよく分かっているじゃないか。
あの独特なブレザーの学生服をデザインした人は、きっと秀でた才能を持っているに違いない。
そんな制服姿が似合うエリナちゃんだが、お友達の神崎 ゆりえちゃんも、ブルーのショートヘアがミオに似てかわいいんだよなぁ。
待てよ。という事はつまり、ゆりえちゃんと似ているミオにあの制服を着せても、似合うって事になるんじゃないのか?
うーむ、コスプレの夢が広がりそうだな。
「お兄ちゃん、曲が始まるよー」
「……はっ!? そ、そうか。よーし歌うぞ」
いかんいかん。頭の中でミオたちのアニメ談義に参加しているうちに、いつの間にか前奏が流れていた。
「柚月さん、頑張ってください!」
「ありがとう。歌えるところまで歌ってみるよ」
レニィ君の応援に呼応するように、ミオとユニィ君がパチパチと手を叩く。
拍手してくれるのは嬉しいんだけど、あんまり期待されても困るんだよなぁ。
俺みたいな低音の男が、女性歌手の原曲キーに合わせて声を張り上げるんだから。
これが合コンの場だったら、まず確実に、全員から引かれているだろう。
……そういや、この曲の歌い出しってどんなんだったっけ?
最初は確か、主人公であるプリティクッキーのセリフから始まってたよな。
そのセリフの詳細を覚えていないから多少戸惑ったが、画面に映っている歌詞がナビをしてくれるので、すんなり歌い出す事ができそうだ。
よし、いくか。
「みんなー! おいしいお菓子の時間だよー!」
俺に少女役の声は出せないので、思いっきりトーンを上げてごまかした。
「わぁ。すごいよお兄ちゃん!」
「柚月さん、素敵です!」
まだ出だしも歌っていないというのに、ミオたちの声援が心に沁 みる。
ユニィ君はお気に入りのタンバリンでリズムを取り、場を盛り上げようとしてくれているようだ。
ここで声が裏返りでもしたら、えらい大恥をかいてしまう事になるので、まだまだ気は抜けない。
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