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29.初めてのカラオケ(5)

「……ダメ?」 「ダ、ダメじゃないよ。ちょっと意外だったなーって思っただけだから。それじゃ曲探すね」 「やった! お兄ちゃんありがとうー」  ミオが大喜びでぎゅーっと抱きついてくる。  そんな俺たちの姿が微笑ましい親子愛に映ったのか、レニィ君はまるで母親のような、柔和な笑顔でこちらを見つめていた。  やれやれ、まいったなぁ。  ミオがリクエストした『魔法少女プリティクッキー』は、『海賊三国志』の前に放映している女の子向けのアニメだ。  某テレビ局は、午前九時からの三十分は女の子、そして九時半からは男の子の時間として、それぞれアニメ枠を取っているのである。  この作品は、ミオと一緒に歯科検診に行った時に、ミオが読んでいた、アニメコミックスにもなっている有名なものだ。  〝お菓子の国〟から来た妖精に助けを請われた一人の女の子が、お菓子でできたコスチュームを着て魔法少女となり、悪の手先と戦う三十分。  絵柄も曲もかわいい事この上ないアニメだから、本来は女の子向けなのだが、ミオはクラスメートの女の子たちから普通に同性扱いされるため、このアニメの話題が自然と耳に入り、気になった結果、毎週観るようになったのである。  そんなプリティクッキーを、隣で一緒になって観ていたのは誰あろう俺なのだから、こういうリクエストになったのだろうけど、いかんせんこの歌は原曲キーが高すぎる。  だからといって、空気を読まずに地声の低音で歌うのもなぁ。 「ありがとうございましたー」  主題歌を検索している間に、ユニィ君が『海賊三国志』の曲を歌い終えたので、俺たちは拍手で迎えた。 「ユニィ君、すっごくうまかったよー」 「ありがと。ちょっとミスっちゃったけどね」  さすが弟君は活発なだけあって、振り付けを交えて歌っていたわけだが、あれって即興の自己流なのかな。  だとしたら、この子はとんだ役者さんだよ。  ……よし、俺も一丁やるか。  うちのかわいい子猫ちゃんたっての希望なんだし、ここは腹をくくって、血管が切れるくらい頑張って高音を出すとしよう。 「あ! 『魔法少女プリティクッキー』だ! 未央(みおう)さんが歌うんですか?」  モニターに表示された曲名を見て、レニィ君が即座に反応する。  もしかして、この子もプリティクッキーのファンなのかな。 「んーん、違うよー。お兄ちゃんが歌ってくれるの」 「あんなに高い声の歌をですか? 柚月(ゆづき)さんすごいです!」 「いやいや。まだ、ちゃんと歌えるかどうか分かんないから」 「このアニメの曲、レニィも好きなんだよねぇ」  先ほど歌い終わったばかりのたユニィ君が、お兄ちゃんの秘密を次々と暴露していく。 「ちょっ、ユニィ!」 「ぼくはその間ゲームしてるから知らないけど、レニィは毎週欠かさず観てるし、テレビの前で一緒になって歌ったりしてるじゃん」 「それを言わないでぇ……」  女の子向けのアニメを観ているだけでなく、主題歌を歌ったりしているのがバラされて恥ずかしいのか、レニィ君は火照った顔を覆い隠してしまった。

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