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30.さらば、リゾートホテル(5)

「はい。だから、明日は朝から、海に連れて行ってもらえる事に決まったんです」 「明日?」 「そ。ぼくたちは明日までお泊まりなんで、『明日は家族でたくさん遊ぼう』ってパパたちが約束してくれたんだよ」 「そうだったんだ! よかったねぇー」  ミオがポンと手を叩き、笑顔で祝福した。  反省か、まぁ普通の親ならそうなるよな。  考古学者がどれだけ忙しいのか俺には分からないけど、世界で一番かわいい我が子よりも仕事を優先させた結果、他の宿泊客からカラオケの誘いを受けた事を知るや、自分が一体何をしてきたのかに気付いたのだろう。  これで明日は、如月家が水入らずでバカンスを楽しめるといいんだが。 「あ。エレベーター来たよ。乗ろっ!」  三つあるエレベーターのうち、三階に到着してドアが開いたのは、一番左側のエレベーターだった。 「このエレベーターって、テレビみたいなのが付いてるんだよねー」 「あ、これですよね。すごく綺麗な景色を見られるから、僕たちも乗るたびに楽しみにしてたんです」 「分かるよ。何せこのモニターは、島の名所の紹介だったり、海の景観を見せてくれたりするから、乗っている間も飽きないんだよな」 「ぼく、この〝般若岩(はんにゃいわ)〟ってのが気になっているんだけど、柚月お兄さん、知ってます?」 「え? 般若岩?」 「お兄ちゃん、これって……」  そう。このモニターでも紹介されている般若岩は、俺たちがチェックインした昨日、観光名所めぐりの一発目をして見に行った、何とも微妙な代物だったのだ。  何せ般若どころか、ほんとに鬼の顔をしているかどうかすら分かんなかったんだから。  ユニィ君は、そんなガッカリスポットが気になり、行きたくなっているのかも知れないが、あんまりお勧めはできないよなぁ。 「もしかして、行って見てきたんですか?」 「あー、まあ、ね。んで正直に言うと、大したもんじゃなかったよ。な、ミオ」 「うんうん。あれ、普通の岩だったよねー」 「そうなんだ。かっこいいかなって思ってたんだけど、残念だなぁ」  などと話をしているうちに、俺たちを乗せたエレベーターは、あっという間に四階へと着いた。 「あ。でもね、近くの神社ならおすすめだよー」 「神社ですか?」 「うん。そこって縁結びの神社でね、好きな人と結婚できますようにってお願いするとこなの」 「結婚……!」  よほど気になるワードだったのか、即座に反応したレニィ君は大きく目を開き、各部屋の迷惑にならないくらいの声量で、二、三回「結婚」とつぶやいている。  もしかして、この子もすでに結婚願望を持っているのか?

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