229 / 833
30.さらば、リゾートホテル(5)
「はい。だから、明日は朝から、海に連れて行ってもらえる事に決まったんです」
「明日?」
「そ。ぼくたちは明日までお泊まりなんで、『明日は家族でたくさん遊ぼう』ってパパたちが約束してくれたんだよ」
「そうだったんだ! よかったねぇー」
ミオがポンと手を叩き、笑顔で祝福した。
反省か、まぁ普通の親ならそうなるよな。
考古学者がどれだけ忙しいのか俺には分からないけど、世界で一番かわいい我が子よりも仕事を優先させた結果、他の宿泊客からカラオケの誘いを受けた事を知るや、自分が一体何をしてきたのかに気付いたのだろう。
これで明日は、如月家が水入らずでバカンスを楽しめるといいんだが。
「あ。エレベーター来たよ。乗ろっ!」
三つあるエレベーターのうち、三階に到着してドアが開いたのは、一番左側のエレベーターだった。
「このエレベーターって、テレビみたいなのが付いてるんだよねー」
「あ、これですよね。すごく綺麗な景色を見られるから、僕たちも乗るたびに楽しみにしてたんです」
「分かるよ。何せこのモニターは、島の名所の紹介だったり、海の景観を見せてくれたりするから、乗っている間も飽きないんだよな」
「ぼく、この〝般若岩 〟ってのが気になっているんだけど、柚月お兄さん、知ってます?」
「え? 般若岩?」
「お兄ちゃん、これって……」
そう。このモニターでも紹介されている般若岩は、俺たちがチェックインした昨日、観光名所めぐりの一発目をして見に行った、何とも微妙な代物だったのだ。
何せ般若どころか、ほんとに鬼の顔をしているかどうかすら分かんなかったんだから。
ユニィ君は、そんなガッカリスポットが気になり、行きたくなっているのかも知れないが、あんまりお勧めはできないよなぁ。
「もしかして、行って見てきたんですか?」
「あー、まあ、ね。んで正直に言うと、大したもんじゃなかったよ。な、ミオ」
「うんうん。あれ、普通の岩だったよねー」
「そうなんだ。かっこいいかなって思ってたんだけど、残念だなぁ」
などと話をしているうちに、俺たちを乗せたエレベーターは、あっという間に四階へと着いた。
「あ。でもね、近くの神社ならおすすめだよー」
「神社ですか?」
「うん。そこって縁結びの神社でね、好きな人と結婚できますようにってお願いするとこなの」
「結婚……!」
よほど気になるワードだったのか、即座に反応したレニィ君は大きく目を開き、各部屋の迷惑にならないくらいの声量で、二、三回「結婚」とつぶやいている。
もしかして、この子もすでに結婚願望を持っているのか?
ともだちにシェアしよう!