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30.さらば、リゾートホテル(7)

「あの。僕、柚月さんみたいなかっこいい男の人に憧れてたんです。それで、もしかしたらって思って」  おいおい、それって〝告白〟だよな?  つまり俺は、二十七年間生きてきて、ここ最近の、それもわずか一ヶ月そこらで、二人のショタっ娘から惚れられたって事になるのか。  人生には誰しも三回のモテ期があると言われているが、その初回が今だったとは。  だが、俺には二股をかけるなんて下衆(ゲス)いマネはできない。  俺の隣で、心配そうな顔をして上着の袖を掴んでいるミオこそが俺の恋人なのだから、レニィ君の気持ちに応える事はかなわないのだ。  しかし、きっぱりと断るのもかわいそうだし、一体俺はどうしたらいいんだろう。 「何してんだよ、レニィ! 早く帰らなきゃパパたちに怒られちゃうでしょ?」 「あ。ご、ごめん。すぐに行くよ」  まさに渡りに船というか、先行していたユニィ君がナイスなタイミングで割って入ってくれた事によって、話がうやむやになった。 「もー、ほんとに惚れっぽいんだからぁ」 「だってぇ。柚月さん、すごく優しいんだもん……」 「それは分かってるよ。でもぼくだって、柚月お兄さんに甘えたいの、我慢してるんだからね」  何だって!? そんなの初耳だぞ。  あの活発で元気印のユニィ君までもが、俺に甘えたがっていたというのか。  俺としたことが、全く気付いてやれなかったなぁ。  あの子の心境を察するに、お兄ちゃんのレニィ君がお父さんを説得する時に、およそ十五分に渡って俺の良さを熱弁したもんだから、自分はあえて身を引こうと思ったとか?  だとしたらユニィ君は、マイペースなように見えて、ものすごく健気な一面も持ってるんだな。  人は旅行に出ると、その解放感から恋をしたくなるとは聞くが、まさかそのお相手が俺だったとはねぇ。  しかもショタっ娘三人から同時にだなんて、今の俺はモテ期の最高潮じゃないか。  ……いやいや、だからといって余裕こいている場合ではないな。  俺が着ているルームウェアの袖を引っ張る力の強さに比例して、ミオが警戒心を強めてきているのが分かる。  確かにミオは、両親の愛情を受けられないレニィ君の事を案じ、俺を父親代わりとして甘えさせてあげたいとは言ったが、結婚というフレーズが出ると、また話が変わってくるからだ。  このまま客室に戻ったら、俺は再び針のむしろに座らされそうだな。 「ミオ」 「ん?」 「大丈夫だよ」  この一言でどれだけ警戒心を緩和できるか分からないが、とにかく自分には二心(ふたごころ)は無いという意思は伝えたつもりだ。  でも、言葉だけではまだ安心はできないかも知れない。  そこで俺は、ミオの腰にそっと手を回し、優しく抱き寄せる事にした。 「あっ」  ふいに抱き寄せられたミオは、ピクンと身を震わせ、驚いた様子で俺の顔を見上げる。 「お、お兄ちゃん?」 「ミオ。こういうの、嫌?」  前を歩く如月兄弟に聞こえないよう、俺は声を殺し、ミオの耳元でささやくように問いかけた。 「んーん、嫌じゃないよ。すごく嬉しいけど、レニィ君たちが……」 「前を向いてるから平気さ。それに、俺たちは結婚するって約束してるんだから、これくらいはやったっていいだろ?」 「うん……そうだよね。ありがとうお兄ちゃん」  今の言葉がよほど嬉しかったのか、ミオは少しはにかんだ様子で、俺の体に頬をすり寄せてきた。  これでようやく、ミオも安心してくれたかな。  長い内廊下(うちろうか)を歩きながら話し込むレニィ君たちの動向に注視しつつ、こうして体を寄せ合ってイチャつくのは、かなりスリルのある行動だ。  ま、見られたら見られたで、これも親子愛という事でごまかしちゃえばいいか。

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