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30.さらば、リゾートホテル(8)

「あれ? 部屋はどっちだったっけ?」 「端っこから三つ目だよ、ユニィ」 「三つ目は分かるんだけどー」  目的の部屋が近くなるにつれ、如月兄弟の声がにわかに大きくなった。  弟のユニィ君は、内廊下の両側にある客室のどちらに泊まっていたのかを忘れたのか、左右をキョロキョロし始める。  内廊下は方角が分かりにくいから、部屋番号を正確に覚えてないと、どっちどっちなのやら区別がつかないのだろう。  そんなユニィ君がこちらを向く前に、俺とミオはアイコンタクトを行い、お互いが抱き合っていた手をそーっと戻した。  今日チェックインしたばかりの如月家は、四階の角部屋から、数えて三番目の客室を確保したらしい。  カラオケをしている間に聞いた話だと、レニィ君たちが泊まっている客室は、海とは正反対の道路側だったため、窓から海を眺める事はできないのである。  だからこそ、この子たちはカラオケルームから、海が見えるのを楽しみにしていたんだろう。  オーシャンビューが売りのリゾートホテルで、ようやく予約を取れた部屋が、あろうことか山側だったってのも切ない話だよなぁ。  いや待てよ、むしろ、そういう訳ありなプランを選択したからこそ、連泊の予約が取れたのかな?  その辺の事情は俺には分からないが、とにかくレニィ君たちが海を見たいなら、直接プライベートビーチへ繰り出すしか手段が無いのだろう。  で、そのプライベートビーチでボール遊びをしていて、偶然俺たちに出会ったと。  きっかけこそ些細(ささい)なものだったけど、こうして仲良くなって、ロビーラウンジでお茶をしたり、みんなでカラオケで歌って楽しい時間を過ごせた。  そう考えると、運命のめぐり合わせってのは、ほんとにあるもんなんだなぁと思わされるよ。 「あ! あった、この部屋だー」 「ユニィ、もう夜遅いんだから、あんまり大きな声出しちゃダメだよ」 「はーい」 「柚月さん、未央さん。ここが僕たちの泊まっているお部屋です。わざわざ送ってくださって、ほんとにありがとうございます」  レニィ君はそう言うと、俺たちに深々とお辞儀をした。 「いやいや、いいんだよ。最後まで見守りをするのは、保護者として当然の務めだからね」 「今日はすごく楽しかったです!」 「そだね。ボクも一緒にカラオケできて楽しかったよー」 「……何だか、名残り惜しいです」 「うん。分かるよ」  俺とミオは明日でチェックアウトだから、ここがレニィ君たちとのお別れの場所になる。  この四人での時間がもっと続けばいいのだろうが、現実はそう優しくはない。  せっかく仲良くなった子たちとさよならするのは辛いけど、みんなそれぞれの生活があるんだから、仕方ないよな。

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