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30.さらば、リゾートホテル(9)

「あの。柚月さん」 「ん? 何だい?」 「明日のチェックアウトの時、お二人をお見送りさせてもらえませんか?」 「えっ? それは嬉しいけど、そこまでしてもらっちゃ悪いよ」 「そんな事ないです!」  ずっと物静かだったレニィ君が、柄にもなく大きな声を上げたので、俺とミオは面食らってしまった。 「レ、レニィ君?」 「僕たち、二人で話し合って決めたんです。柚月さんと未央さんにお世話になってばかりだったのに、何もお返しできないのは申し訳ないから、せめて見送りだけでもしようって……だから……」  レニィ君はそこまで言うと、真っ赤になった目を潤ませ、肩をぷるぷると震わせ始めた。  そうか、この子たちは自分なりにできる事で、俺とミオに恩返しをしたいと思っていたんだ。  そんな二人の、甲斐甲斐しい申し出を断るだなんて、ヤボな事はやっちゃいけないよな。 「なあ、ミオ」 「うん。お兄ちゃん」  俺たちは短い言葉でお互いの意思を確認し、そしてこう答えた。 「ありがとう。それじゃ、明日は二人が見送りに来てくれるのを楽しみにしてるよ」 「柚月さん……ありがとうございます」 「勝手に決めちゃってすみません。レニィってば、言い出したら聞かないところがあるんです。もしご迷惑だったら、遠慮なく言ってください」  てっきりやんちゃ者だとばかり思っていた弟のユニィ君が、ここまで申し訳なさそうに頭を下げるとは。 「大丈夫だよ、迷惑なんかじゃない。二人に来てもらえると嬉しいよ」 「でも、明日は海に連れて行ってもらえるんでしょ? ボクたちの帰る時間に合わせて大丈夫なの?」  と、ミオが真っ当な質問をする。 「はい。パパとママには、僕たちから話をして、時間を調整してもらいます」 「そっか。だったら、俺たちもあらかじめチェックアウトする時間を決めておかないとね」 「そだね。このホテルって、明日のいつまでいてもいいの?」 「ここのチェックアウトは午前中の十一時までにって決まってるから、その時間よりも、少し余裕を持たせて出た方がいいだろうな」 「じゃ、帰るのは一時間前くらいにしない?」 「て事は十時か。うん、いい頃合いだね」  明日は朝食を取った後、売店へお袋へのみやげを買いに行き、それから帰り支度と、忘れ物が無いかなどの確認作業を念入りに行う必要がある。  だから、ミオが提案した十時チェックアウトは、至極妥当なラインだと言えるだろう。 「という事だから、俺たちは十時にはチェックアウトするよ。それでも構わない?」 「もちろんです! 早めにエントランスの近くでお待ちして、必ずお見送りさせてもらいます」 「ありがとう。じゃあ、今日のところはこれで帰るよ。また明日会おうね」 「はい!」 「レニィ君、ユニィ君。お休みー」 「お疲れさまでした。柚月さんと未央さんにお会いできて、ほんとに嬉しかったです。お休みなさい」 「カラオケ、最高に楽しかったッス。ありがとうございました!」  双子の如月兄弟はシンクロしたように頭を下げ、客室に戻る俺たちがエレベーターに乗るまで、ずっと手を振り続けていてくれた。  ふぅ。これで子供たちの保護者としての任務、半分終了と。

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