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32.イカ料理を食べよう!(11)

「そこまで考えててくれたんだね。ありがとな、ミオ」 「んぅー」  期待に応えられない自分がお礼を言われる事にもどかしさを感じたのか、ミオは若干口ごもったような返事をする。 「でもさ、胸が大きくならなくても、ミオはすごく魅力的だと思うよ」 「魅力的?」 「そう。つまり、俺は今のままのミオが一番好きなんだって事」 「お兄ちゃん……」 「ほら、おいで。抱っこさせてよ」  俺は隣に座るミオに向かって微笑みかけ、そして両手を広げる。  すると、さっきまでの残念そうな表情はどこへやら、一転して顔がほころんだミオは喜んで膝の上に乗り、俺の胸に頬をくっつけて甘えてきた。 「いい子いい子」  俺に抱きついたミオの頭を、いつものように優しく撫でる。  これは俺なりの、我が子にできる最大の愛情表現であり、同時に彼氏としての、彼女であるミオへのスキンシップでもあるのだ。  まぁ、平たく言うと、恋人らしくって事。 「んー。お兄ちゃんのいい子いい子、大好きぃ」 「ふふ。ミオはこれが好きなんだもんね」 「うん。ねぇお兄ちゃん」 「ん。何かな?」 「今日の事、夏休みの日記に書いてもいーい?」 「えと、今日の事って、ネットでイカ飯について調べたってやつ?」 「うん。それとね……」  ミオはそこまで言うと、抱かれた俺の腕に頬ずりを始めた。 「お兄ちゃんがボクを抱っこして、いい子いい子してくれた事もだよっ」 「え。そこまで書いちゃう?」 「だってぇ、すごく嬉しかったんだもん。いい事はたくさん思い出に残したいでしょ?」 「あ、あはは、確かにそうだね。じゃあ、書いちゃおっか」 「ありがとう! ボク、頑張って書くね」  こうして、また二人による甘いひと時の記録が、一ページ増える事になったわけだ。  このスキンシップも、俺のパソコンにお宝画像集をお気に入り登録していた事から端を発したわけで、何がどう転ぶか分からないもんだな。  日記に書かれるのはちょっと気恥ずかしいけど、とりあえず、浮気の疑いが晴れただけでも良しとするか。  ――とまぁいろいろあったが、ともかく。  今週の土曜日、十九時にイカ料理専門店の予約を取った事で、次のデートプランが決まった。  もっとも、そこでやる事と言えば、イカ料理のフルコースを食べ尽くす。それだけなんだけどね。  ただ、俺たちにとっては、まだ見ぬイカ料理を堪能できる週末が訪れるのを待つ事は、何よりのお楽しみなのである。  グルメサイトに載っていた、イカ飯を始めとする各種イカ料理の他に、果たしてどんなラインナップで俺たちを出迎えてくれるのか、期待で胸が高鳴るし、同時に胸が膨らむのだ。  あ、そういう意味では、ショタっ娘のミオでも胸が大きくなるって事でいいのかな。  ……いや、さすがにそれは違うか。

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