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33.夜のデートはイカ尽くし(4)
とまぁ、あんまり悪い方にばかり考えても仕方ない。
もしかしたら、イカ料理の〝通〟御用達な格調高いお店かも知れないわけだし。
何しろ、貴族って名前を付けるくらいだからね。
「ミオ。見てごらん、お店が見えてきたよ」
「あっ、ほんとだ。おっきな看板に難しい漢字が書いてあるねー」
魚市場からわずか数十メートルの立地に建てられた『烏賊貴族』は、居酒屋というよりは、普通の平屋によくある和風レストランのような佇 まいを見せていた。
敷地内の駐車場に停められた車がそれほど多くなく、店内で食事をする客もまばらである事から察するに、今はまだ忙しさのピークではないのかも知れない。
ただ、時刻はちょうど飯時の十九時、いわゆるゴールデンタイムだ。
そう考えると、もっと混雑していてもおかしくないんだけどなぁ。
もしかすると、夜の魚市場まで、車を飛ばしてイカ料理を食べに来る人はそんなにいないのかな?
だとしたら、ここ『烏賊貴族』は穴場って事になるわけだが、果たして……。
「よし、到着ー。さ、おいしいイカ料理がお待ちかねだぞ」
「うふふ、楽しみー」
車から降り、さっそく俺の腕に抱きついてきたミオが、軽くスキップをしながら店の入口へと向かう。
何しろ、事前にしっかり下調べをして、予約を取ってまで食べに来たんだからな、そりゃ心も弾むってもんだ。
「お。ミオ、ここに何か書いてあるよ」
「なになにー?」
俺たちは店舗入り口の前で立ち止まり、店で作っているイカ料理が紹介されているスタンド看板に目を凝らした。
「えーと。『夏のイカフェスタ! 新鮮なアオリイカの天ぷらが特価の三百九十八円』だってさ」
「アオリイカってどんなの?」
「んー、何と言うかな。胴の部分が丸くて大きなイカなんだけどね。釣り応えはあるし、何よりすごくおいしいから、とても人気なんだよ」
「アオリイカって釣れるんだ?」
「うん。ただ釣れはするけど、普通の針じゃまず引っ掛けられないし、技術もいるから結構難しい釣りにはなるかな」
「そうなんだ。イカを釣るのって簡単じゃないんだね」
「まぁ、そのためにこういうお店があるんだろうな。何しろ、安い値段で新鮮なアオリイカを食べさせてくれるんだからさ」
俺の腕を抱っこしたままのミオがうんうんと頷く。
「ボク、この天ぷら食べたーい」
「こんだけ大きなイカの天ぷらが山盛りだもんなぁ、食べない手は無いよな」
……と、食べたいメニューがスッと決まったのはいいとして、この店は、主食となるご飯ものは出してくれるんだろうか。
そのご飯ものに該当するのが、先日調べたイカ飯になるのかな?
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