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33.夜のデートはイカ尽くし(5)
でもなぁ、この間調べたレシピによると、イカ飯に詰める米にはすでに味が付いているわけだろ。
天ぷらやバター炒めみたいなおかずを食べるなら、やっぱり白飯が欲しいよな。
なんて、ここであれこれ考えていても仕方がないか。腹も減ってきた事だし、チャッチャと店に入って、お品書きを見せてもらおう。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
防音のための二重ドアを開けて店舗内に入ると、頭にバンダナを巻き、青い和風の制服を着た男の店員さんが声をかけてきた。
「はい。あのー、十九時に予約をしていた柚月 ですけど」
「柚月様ですね、承っております。それでは、お席までご案内いたします」
応対の丁寧な店員さんについて行きながら店内を見回してみると、内装に使われている木材が黒く塗装されていて、全体的に落ち着いた雰囲気が演出されているように感じる。
「おっきなお店だねー」
「そうだなぁ。中は広いし天井も高い。開放感があるよな」
「うんうん。ボク、こういう場所だーい好き」
そうか、ミオはこういう広い空間が好みなんだ。じゃあひとまず、第一印象は好感触って事かな。
この間ネットで調べたグルメサイトじゃあ、お店で出されるメニューだけがフォーカスされていたので、店構えや内装、衛生状態などは、実際に行ってみないと分からなかったのだ。
だからここに来るまで若干の不安はあったんだが、ミオが気に入ってくれたようでホッとした。
烏賊貴族はアルコールを提供しているお店ではあるが、ざっと見た感じ、お客さんは比較的家族連れの方が多いため、さほど騒がしくはない。
どちらかと言うと、ここは居酒屋ではなく、ファミレスのような感覚で運営されているのかも知れないな。
店員さんに案内されるがまま、店舗の奥まで通されると、そこでは、間仕切りされた四人用テーブルの座敷が俺たちを待っていた。
そのテーブルの上には〝予約席〟と書かれたサインプレートが置いてある。
そんなに混まない店だと分かっていたら、ここまでして席を取る事も無かったかな。
いやいや、それは結果論だろう。
ひょっとしたら、今日がたまたま空いていただけかも知れないし、あえて予約を取ったからこそ、俺たちはこんないい席に座らせてもらえたんだ。
窓からのぞく、海を挟んだ向こう側の夜景はとても綺麗だし、ここからなら店内の中心にある、大きな生簀 もよく見える。
あとは、おいしいイカ料理が食べられれば文句無しだね。
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらの呼び出しボタンを押してくださいませ」
テーブルの端っこには、メニュー立ての隣に、丸形でベルが描かれた呼び出しボタンが設置されていた。
このボタンを押せば、店内の電光掲示板に、呼び出しをしている席の番号が表示されるシステムになっていて、それを見た店員は注文を伺いにやって来る。
呼び出した席の番号は左から順番に並んでいくため、仮にこの店が混み合っていても、まずどの客への応対を先にするべきなのかが一目で分かるようになっているわけだ。
そういうところは、まぁ一般的なファミレスと同じだよな。
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