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36.初めてのデパート(2)

 浴衣は紳士服という扱いでいいのだろうか? という疑問は抱いたものの、とにかくこのデパートの四階では、男ものの服全般と、スポーツウェアやゴルフ用品なんかも取り扱っているようである。 「他に浴衣を売ってそうなフロアといえば、六階の子供服売り場と、サマー衣料フェスタを開催中の七階か。こっちは後にするとして、まずは四階に行ってみようか」 「うん。浴衣、売ってるといいねー」 「もし無かったらごめんな、ミオ」 「いいよぉ。ボク、お兄ちゃんと一緒にデートできるだけで幸せなんだもん」  ミオはそう言うと、俺の左腕にぎゅっと抱きついた。  ほんとに慎ましやかな子だなぁ。  いかに未開の地とは言え、俺とデパートに来れただけで、こんなにも喜んでくれるなんて。  ただ、ムダ足を踏ませるのはミオに申し訳ないので、デパートを心ゆくまで満喫してもらった後、最終的な手段として、帰宅後にネット通販を駆使して浴衣を取り寄せる計画も立てている。  遠慮がちなミオに対し、俺がここまで意気込んでいる理由は、来たる来週の日曜日が、ミオの記念すべきお祭りデビューの日になるからだ。  そんなめでたい日にこそ、かわいい我が子への贈り物として、本人が心から気に入った浴衣を着せてあげたいと思うのである。 「お兄ちゃんは、ここに来たことあるの?」 「いや、実を言うと俺もこのデパートは初めてなんだ。だから、何階に何を置いているのかよく分かんなくてさ」 「そうなんだ。でもこんなに大きな建物だから、浴衣もありそうな感じだよね」 「うん。そんな気がする」  本来なら、デパートのホームページをチェックしてから訪れるのが手堅い買い物の仕方なのかも知れない。  あえてのノープランでやって来た俺たちが楽観的でいられるのは、フロアガイドに載っているお店の多さに期待を寄せているからだ。  ワンフロアにファッションショップが十二もあれば、どこかには置いているに違いないと踏んでいるのである。 「それじゃあさっそく、エレベーターに乗って四階へ行こうか」 「行こう行こうー」  買い物客がひしめく店内で離れ離れにならないよう、しっかりと手を繋いだ俺たちは、建物の中央にあるエレベーターを目指す。  このデパートの性質上、俺たちがエレベーターに乗るには、まず一階のビューティーフロアを抜ける必要がある。  ビューティーとはつまり美容の事で、フロアに立ち並んでいるのは、主に化粧品なんかを取り扱っているコスメショップだ。  どれもこれも、テレビのコマーシャルで見た事のある有名ブランド店ばかりなのだが、ミオはそのお店を、物珍しそうな目で見回している。

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