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36.初めてのデパート(20)
「も、申し訳ございません!」
「いえいえ、いつもの事ですから。な、ミオ」
「そだね。もう慣れちゃった」
女の子に間違えられたのが本日二回目となるからか、ミオが作った苦笑いの奥には、どこかしら心の余裕らしきものが垣間見える。
あるいは、さっきインフォメーションカウンターで会話した時、俺に、面と向かって「全部かわいい」と言われた事で、自分の中にある女の子らしさを意識し始めたのかも知れない。
「そういうわけなので、浴衣はこれを買います。あとは浴衣に合う履物も欲しいんですけど、置いてますか?」
「はい。あちらのコーナーで下駄を各種取り揃えておりますので、よろしければご案内させていただきます」
店員さんの案内で履物コーナーへと連れて来てもらった俺たちは、先ほど試着した、お魚模様の浴衣に合う下駄選びに取り掛かる。
気をつけないといけないのが、足元をやたら派手にすると、浴衣の華やかさを消してしまいかねないという事。
よって、ミオが履く下駄には、足を支える台と歯の部分は無難な白木仕上げで、鼻緒だけが濃い赤色のものをチョイスした。
ついでに、今は夏祭りフェアを開催中というこのお店で、ミオに持たせる扇子と巾着 も買い物カゴに放り込む。
今度の納涼祭で、果たして巾着に入れるものが置いてあるのかは分からないが、こういうのは雰囲気が大切なんだ。
何と言っても、来週の日曜はかわいい我が子のお祭りデビューの日だからね。せっかくの晴れ舞台に、目一杯のドレスアップをしてあげないともったいない。
最初は遠慮がちだったミオも、アイテムが揃っていくにつれて気持ちが高ぶってきたのか、今ではウキウキとしている。
「お兄ちゃん、ありがとね。こんなにかわいい浴衣とか、いろいろ買ってもらえて、ボク、すっごく幸せだよー」
「はは、幸せだなんて大げさだなぁ。でも気に入ってくれて良かったよ」
「大げさじゃないもん。ほんとなんだからねっ」
ミオは自分の言葉を証明するかのごとく、俺の左腕にぎゅーっと抱きつき、まるで子猫のように何度も頬ずりをして甘え始めた。
「ちょっ、ちょっとミオ。お店の中だから……」
「お兄ちゃん、大好きぃー」
ミオは一旦こうなると、しばらくスイッチの切り替えが効かなくなる。でも困ったってわけじゃあないんだよな。ただ、ため息が出そうなほどにかわいいだけで。
毎度の事ではあるが、我が家が誇るショタっ娘ちゃんの、人目をはばからない甘えっぷりには胸がキュンとさせられてしまうのだ。
これってやっぱり恋なのかなぁ。
ミオがここまで楽しそうにしているのを見ると、エスコート役を務める俺も報われた気分になるから不思議なもんだな。
とにかく、お目当てのものが揃った事でお祭りの実感が湧いてきて、俺もミオも、次の日曜日が待ち遠しくなってきたのは間違いない。
これで後は、当日の天気が崩れなければ言う事無しなんだけどね。
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