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36.初めてのデパート(19)
「どうかな、お兄ちゃん。似合ってる?」
試着室にて、服の上から浴衣を着付けしてもらったミオは、その場でくるりと一回転してみせる。
まだ着慣れしていないため、身の翻 し方に若干のぎこちなさはあるものの、むしろそこが初々しくってかわいい。
ほぼ真っ白な生地に、ミオが大好きなアジを始めとして、サバやイワシ、ヒラメなどの大衆魚のほか、エビやカニといった甲殻類までもが名を連ねて描かれている、男の子用の浴衣。
そんなバラエティに富んだ浴衣を結んでいるのは、渋めな紺色の帯だ。で、その帯のサイド部分にはワンポイントとして、いかにも活きの良さそうな鯛のイラストがプリントされていた。
かように秀逸なデザインにばかり気を取られがちだが、ミオのチャームポイントである爽やかなブルーの髪を引き立てる、落ち着いた色合いにも注目したい。
……こうして客観的にものを見ていると、何だか、テレビ番組で街角ファッションチェックをやっているデザイナーにでもなった気分だな。
「うん。とてもよく似合っててかわいいよ。色も合ってるし、ミオにピッタリだと思うな」
「ほんと? えへへ、良かったぁー」
俺からのお墨付きがよほど嬉しかったのか、ほんのりと頬を紅くしたミオが、はじけんばかりの笑顔を見せる。
何よりミオ本人が気に入ってくれたみたいだし、サイズもちょうど良さそうだから、この浴衣はそのままお買い上げかな。
「お兄ちゃん! ボク、これ着て行きたーい」
「よーし、それじゃあ浴衣は決まりだね。あとは履物なんだけど――」
「あの、お客様。少々よろしいでしょうか?」
ようやく目当てのものが手に入ることに安堵していると、先ほどまで着付けをレクチャーしてくれた店員さんが、おずおずと声をかけてきた。
「申し遅れてすみません。こちらは、男の子用として販売させていただいている浴衣なのですが……」
店員さんは俺たちに相当気を遣っているのか、次の言葉をかけづらそうにしている。
まぁあれだな。その〝次の言葉〟が何かはだいたい想像がつくから、俺の方から助け舟を出してあげよう。
「それで構わないですよ。この子、男の子なので」
「え! そうだったんですか!?」
案の定といった反応だ。ご多分に漏れず、この店員さんも、ミオの事を女の子だと思い込んでいたらしい。
もっとも、勘違いするのも無理のない話ではあるんだよな。うちの子猫ちゃんは顔立ちや仕草が女性的だし、今日も丈の短い、美脚が映えるショートパンツを穿いて来ているから、ひと目で男の子だとは判別できなかったのだろう。
極めつけが、俺が持つ買い物カゴの中から顔をのぞかせていた、女の子向けの〝ウサちゃんショーツ〟だからな。ミオの性別を見分ける唯一のヒントがこれじゃ、そりゃあ、ボクっ娘だと間違われても仕方ないよ。
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