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36.初めてのデパート(18)
「あ。お兄ちゃん、あれどうかな!」
再び手を繋ぎ、浴衣コーナーを見て回ること、およそ数分。
神経を研ぎ澄まし、かわいいものアンテナを張り巡らせていたうちの子猫ちゃんが、また、気になる何かを見つけたようだ。
「どれどれ?」
「ほら、あのお魚さんが描いてある浴衣だよー」
ミオは、まるで宝物でも見つけたかのように目を輝かせながら、一体のマネキンを指で示す。
その視線と指の先には、ついさっき見たドレスのような派手さこそ無いものの、様々な魚のデフォルメイラストがふんだんに描かれた、白地のかわいい浴衣が着せられていた。
浴衣そのものの長さや結ばれた帯の形状から察するに、おそらくこの浴衣は男の子用として作られたらしいが、ミオのような、女の子寄りのショタっ娘ちゃんが着ても、何ら違和感は無さそうではある。
「おお、これ良いじゃん。ミオの大好きな魚がいっぱいだし、色も合ってそうだ」
「でしょー。すごくかわいいから、ボク、ひと目で気に入っちゃったの」
「そんなに気に入ったんだね。じゃあ、浴衣はこれで決めちゃっていい?」
「うん!」
「よーし。そうと決まれば、さっそくこの浴衣を試着させてもらうとしようか」
「シチャク? 何それ?」
「えっと、試着ってのは要するに、この浴衣がミオに合ってるかどうかを調べるために着てみる事、かな」
「ここで着てもいいの?」
「このお店、試着室があるからいいと思うよ。ミオの体に合う大きさの浴衣を買うためにも、いっぺん着てみるのは大切な事だからね」
「そうなんだ。じゃあボク、シチャクするー」
「よし、それじゃ店員さんを呼ぼう。すみませーん」
俺たちは浴衣コーナーを担当している店員さんに来てもらい、ミオが惚れ込んだ浴衣の試着をさせてもらう事にした。
普通の洋服なら、ただ試着の許可を取るだけでいいのだろうが、浴衣は着付けという作業がある。
いわゆる「右前に着る」作法だとか、正しい帯の結び方なんかをレクチャーしてもらう必要があるのだ。
今回は服の上に試着するので、試着室のカーテンは開けたまま、ミオが浴衣を羽織る様子を見守る事になった。
今日初めて浴衣を知ったミオが、いきなり自分一人で着付けを全部やるのは無茶な話だ。
なので来週の納涼祭の折には、サポート役として、俺が着付けを手伝うつもりである。
すなわち、店員さんによるレクチャーは、ミオのためであると同時に、俺のためでもあるという事。
ミオにとっての納涼祭は年に一度の晴れ舞台なのだから、浴衣は正確に、かつ、かわいく着せてあげたいと思うのである。
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