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37.デパートを満喫しよう!(12)

「やっぱり柚月くんだ。こんなところで会うなんて奇遇だねー」 「あ。理穂(りほ)……さん?」  後ろを振り向き、親しげに話かけてくる声の主を確認する。  果たしてその正体は、俺にとっては苦い思い出のある女性の一人、茶髪のロングヘアーが特徴的なOLの理穂さんだった。  もしやと思って彼女の周囲を見回したが、どうやら他に連れ立って来ている友達や彼氏はいないようである。  その様子を見て、思わずホッとしてしまった自分の心境が何だか複雑だなぁ。一体俺は、何にホッとしたのだろう。  どうやら理穂さんには連れ合いがいなさそうな事なのか、あるいは、数年ぶりに再会した彼女が老け込んでおらず、変わらぬ美貌を保っていた事になのか……。  だが、(やす)んじてばかりもいられない。何しろ今の俺は、うちのかわいいショタっ娘ちゃんとデートに来ているのだから。  そんなミオの表情から心境を推し量るに、どこの誰だか知らない女性がいきなりやって来て、二人っきりの楽しいランチタイムをぶち壊しにされた事に対する不満の募りようは、半端なものではないはずだ。  ところで。  先ほどから背中の方に、押し黙ったミオの刺すような視線を感じるのだが、これはひょっとして、また俺が浮気をしているのではと疑っているのだろうか。 「柚月くん、ずいぶん久しぶりだけど、今日は一人でどうしたの?」  どうしたもこうしたもないよ、むしろあなたの方こそ、一人で何をやっているのかと。  そもそも、俺の対面にはミオが座っているというのに、その存在にすら気付いていないような口ぶりが、また小悪魔的と言うか何と言うか。 「いや、その。今日はこの子と一緒に浴衣を買いに来たんだ」 「へ? あぁ、気付かなかったよ。そこにいる子って、柚月くんの何かなの?」  棘のある言い方だなぁ。ミオの事を「何か」って。しかも気付かなかっただって?  ミオはずっと俺の前でご飯を食べている最中じゃないか。理穂さんの立ち位置から、その様子が視界に入らなかったわけじゃないだろうに。  でも、何より情けないのは、周りの迷惑を考えるがあまり、強く言い返せない俺なんだけれども。

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