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40.夏祭りを控えて(11)

「ねぇねぇお兄ちゃん」 「ん、何だい? ミオ」 「何だか音楽が聴こえてこない?」 「音楽?」 「うん。薄っすらとだけど、山の上の方から、太鼓の音とかが聴こえてくるの」  ついさっきまで、アスファルトを蹴る、下駄の乾いた音にばかり気を取られていたが、なるほど、確かに聴こえてくるな。  歩みを止めて耳を澄ましてみると、かすかながら太鼓や笛、そして雅楽などでお馴染みの(しょう)などの音色が耳に届いてくるのだ。  これはもう、間違いないだろう。 「良かったな、ミオ」 「え? 何?」 「今聴こえてきた音楽は祭り囃子(ばやし)って言って、お祭りを盛り上げるために鳴らすものなんだよ」 「まつりばやし?」 「そう。その祭り囃子が鳴ってるって事は、神社では今まさに、お祭りの真っ最中だって証明になるのさ」 「なるほどー。でもお祭りって、夜の何時くらいまでやるのかな?」 「だいたい九時くらいで仕舞いじゃないか? ミオくらいの子供たちだけで来てる場合もあるだろうから、あんまり遅くまでやると危ないしな」 「危ない……危ない?」  ちょっと表現をぼやかして説明したせいか、ミオは首をひねりながら、「危ない」という言葉の意味を考え込み出した。 「えっと、その、何と言うか。ミオも学校で教わらなかったかい? 『知らない人についていっちゃいけません』ってさ」 「あ! それなら先生に言われた事あるよー。お菓子をあげるからって誘ってきて、そのままどこかに連れ去ろうとする怖いおじさんがいるんだって」 「まぁそういう分類だな、危ないってのは」 「じゃあ、夜遅くなったら怖い人が増えるってこと?」 「うん。夜は暗いし人通りも少なくなるだろ? だから、悪い事をしてもバレにくいと思うんだろうね」  男の子に全く危険が無いとは言わないけれど、特にか弱い女の子や、ミオのようなショタっ娘ちゃんは、変質者による変態行為の標的にされやすい。  だから、たとえそれが夕方であろうが昼間であろうが、極力一人だけで、知らない土地への外出する事は避けた方がいいのである。  今日は、保護者であり彼氏でもある俺が同伴しているから安心だけれど、それでもあまり夜遅くまで連れ回すのはよろしくない。  よって、おそらく神社が設定している午後九時というのは、家に帰り着くまでの徒歩の時間を考えると、やはり妥当であると言えるだろう。

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