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40.夏祭りを控えて(12)

「でも、そのおじさん。お菓子って何をあげるつもりなのかな?」 「いやぁ、そりゃ子供をさらうための口実だろ……」 「コウジツ?」 「子供は甘いものが好きだろうと思って、適当な名前をあげて連れて行こうとするだけでさ、ほんとにお菓子なんか持ってやしないんだよ」 「そうなの?」 「たぶん。いや、十中八九間違いないな」  とまで断言したが、実のところ、俺は犯罪者のプロファイリングができるわけではない。  ただ、いたいけな子供を騙そうとする奴のこすっ辛い手口くらいは、何となく想像がつく。  実際にお菓子を与えたとして、毒を仕込んでいる危険性も捨て切れないのだから、どの道、その手の誘いには乗ってはいけないのである。  ――という犯罪者のやり口を噛み砕いて説明しながら、とっぷりと暮れた夜道を、点々と設置された照明灯や、懐中電灯の明かりを頼りに登っていく。  歩を進めるにつれて、祭り囃子の音が大きくなり、幾重にそびえ立つ木々の隙間から、まばゆい光が差し込んできた。  どうやら、目的地はもうすぐ近くのようだ。 「祭り囃子がハッキリ聴こえるようになってきたな。もうそろそろ着くんじゃないか?」 「ほんとだ。何だかワクワクするねー」  お祭り会場の神社が近づくにつれ、祭り囃子にまぎれる下駄の音が増えてきた。  やっぱり、皆こぞって浴衣でやって来てるんだろうなぁ。そりゃ風流のある納涼祭だもんな。 「あ。お兄ちゃん」 「ん?」 「山を降りてきてる人がいるよー」  そう教えてくれたミオの目線の先、およそ十メートルほど向こうでは、確かに複数の人影がこちらへ向かっているようだ。  舗装された山道はこれ一本しかないので、つまりあの人たちは、何らかの用事を終え、山を下っていると最中だという事になる。  その下山中の人たちは懐中電灯を持ち歩いていないらしく、照明灯の真下を通りがかった事で、初めてその姿がくっきりと見えた。  大人の男女二人に、ミオと同い年くらいの女の子が二人……おそらく家族連れではないか。

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