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40.夏祭りを控えて(13)
四人全員が浴衣姿だった事から察するに、あの人たちは早めに神社へと向かい、そしてお祭りを満喫した帰りの下山途中なのだと思われる。
俺たちはすれ違いざま、その家族連れらしき御一行に軽く会釈をし、先を急いだ。
あの人たちが各々手に持っていた、お祭りならではのアイテムが、俺とミオの童心をくすぐったのだ。
「ねぇねぇお兄ちゃん。さっきの女の子、大っきな袋を持ってたよー!」
「ああ、俺も見た。あれはきっと綿飴だね」
「ワタアメ?」
「そう。ザラメで作った綿状の飴を、てんこ盛りに作って袋へ詰めるのさ」
「そんなのがあるんだ! 面白ーい」
ミオはまだ見ぬお菓子の存在を知って、さらに気分が高揚したらしく、その場でぴょんぴょんと跳ね出した。
まだ下駄履きにも慣れないだろうに、器用なものだなぁ。
「神社に着いたら、あれをおみやげに買って行こうか?」
「いいの!? あんなにいっぱいのお菓子……」
よほど嬉しく、思いがけない提案だったのか、ミオが目をキラキラさせながら確認してくる。
綿飴自体はお手頃な値段なのだが、何しろ袋詰めされると、その大きさとボリュームに度肝を抜かれる。だからこそ、ミオにとっては、さぞや高級品に見えてしまったのだろう。
「もちろんいいよ。ミオの、初めてのお祭り記念って事であの綿飴を買ってさ、一緒に食べようよ」
「うん! ありがとうお兄ちゃん」
綿飴を買ってもらえる事と、一緒に食べようと言われた事に喜んだミオは、人目もはばからず、抱きしめた俺の袖に頬ずりをし始めた。
かわいいなぁ。綿飴だけでこんなにはしゃいでくれる彼女なんて、日本中探してもミオくらいのものじゃないだろうか。
その彼女はれっきとした男の子だけど、もうミオくらいのショタっ娘になったら、性別なんて誤差みたいなもんだよな。
実際に今の方が、元カノと付き合っていた時より何倍も楽しいし、何より、お互いの心が満たされている。
俺がまともな恋愛をしてないもんだから分からなかったが、恋人同士になるって、本来こういうものなんだろう。
「さ。そうと決まったら、お祭り会場に急ぐとするか」
「はーい! いっぱい楽しもうね、お兄ちゃん」
俺たちは腕組みから恋人繋ぎへと組み直し、祭り囃子と歓声で大賑わいの、納涼祭が開かれている神社に続く石段を上っていった。
このお祭りへの参加がミオにとって、驚きと喜びで満ちた、素晴らしい経験となりますように――。
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