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41.ショタっ娘のお祭りデビュー(1)

 毎年恒例で、八月には納涼祭が催されている嘉良詰(からつめ)神社。  境内へと続く石段を上り切り、飾り付けがなされた鳥居をくぐると、そこでは中央にある参道の石畳を挟むように、幾多もの屋台や出店がひしめき合っていた。  各店舗にはそれぞれ、お祭りの参加者が客として詰めかけているので、境内はどこも芋の子を洗うような混み具合だ。  ざっと見積もった感じ、現在の入りは二、三百人くらいといったところだろうか。  夏の夜の嘉良詰神社は、初詣の時とはまた違う活気で大賑わいの様相を見せ、その光景に圧倒されたミオは言葉を失い、目をパチクリとさせていた。  まぁお祭りに初参加する子供がここへ来たら、普通はこんな反応になるよな。 「ミオ?」 「すごい……お店と人がこんなにたくさん……」  ミオはその一言だけつぶやくと、今度は何かに気が付いたかのように、スンスンと鼻を鳴らす。 「イカだ!」 「え? (いかだ)?」 「この神社、お兄ちゃんと一緒に食べたイカの匂いがするよー」  どうやらこの子は筏ではなく、「イカだ」と言ったらしい。子猫ちゃんさながらの嗅覚を働かせたミオは、どこからか漂ってくる匂いを嗅ぎ付け、ここにはイカ焼きがある事を言い当てたのである。  確かによく嗅ぎ分けてみれば、イカ焼きの匂いがするんだけれど、初めてお祭り会場へやって来た子供の二言目が、まさかイカに対する反応だとは。  さすがはお魚を見るよりも、食べる事の方が大好きな子猫ちゃんだ。目の付け所が他の子たちとは違う。  余談だが、いかに猫が魚介類を好きだとは言っても、イカを食べさせるとビタミンB1欠乏症を引き起こすおそれがあるので、本来はご法度な行為なのだという。  うちのミオはれっきとした人間だし、イカに対するアレルギー持ちでもない。だからこそ、先日のイカ料理専門店では、本人が満足ゆくまで食べさせてあげたのだ。  あの時食べたイカのぽっぽ焼きの味と香りは、そんなミオに強い印象を残したのだろう。でなければ、真っ先にイカの匂いを察知するはずがない。

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