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41.ショタっ娘のお祭りデビュー(2)
「この匂いはきっとイカ焼きだね。ミオ、イカ焼きを食べたくなった?」
「んー」
ミオは俺の問いにはすぐに答えず、目を閉じ、あごに指を当てて考え込み出した。
何しろ、この間しこたま食べたばっかりだからなぁ。そりゃ悩むよな。
「すっごくおいしそうな匂いだけど、いきなりイカを食べたら、お腹いっぱいになっちゃいそうな気がするなぁ」
「確かに。屋台のイカ焼きはほぼ姿焼きだから、ボリュームは満点だしな」
「そんなに大きいんだ?」
「ここの出店が、どんな売り方をしてるかによるけどね。とりあえず、先に他のお店を見て回ってから考えるとしよっか」
「うん! そうしよー」
話がまとまった俺たちは、お互いが人だかりに飲まれてはぐれないよう、しっかりと手を繋ぎ直し、最寄りの出店へ向かって歩を進めた。
「すごく賑わってるねー。ボク、こんなの初めてだから、びっくりしちゃった」
「結構な人だかりだけど、ミオは平気?」
「大丈夫だよ。大好きなお兄ちゃんと一緒だから、安心して、いろんなところを見てられるの」
嬉しい事を言ってくれるなぁ。
ミオがあまり人の多いところを好まないと知っていたから、この盛況ぶりがちょっと心配だったんだけれど、どうやら俺の取り越し苦労で済みそうだ。
「ねね、お兄ちゃん。あのお店にはじゃがバターって書いてあるよ。いい匂いがするねー」
「ほー、じゃがバターか。今のお祭りじゃあ、そんな料理も売ってるんだな」
「お兄ちゃんが子供の時は無かったの?」
「無いよ。田舎のお祭りだったってのもあるかもだけど、もっぱらの人気は、安くて腹いっぱいになるお菓子だったからね」
「例えば?」
「……りんご飴とか」
「なぁにそれ? 初めて聞いたよー」
ミオに問われて、頭の中にパッと浮かんだ、お祭りならではの定番グルメを口にしたのだが、あの時のりんご飴は言うほど安くはなかったな。
小学生のお小遣い事情を考えると、一個で五百円は、なかなかの高級品だろう。その分ボリュームが満点だから、腹には溜まるんだけれども。
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